無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

本なんて! 作家と本をめぐる52選(キノブックス編)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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タイトル通り、本にまつわる作品を選りすぐったアンソロジーです。芥川龍之介森茉莉室生犀星(収録された「門」の詩が美しすぎる!)から、角田光代さん、朝井リョウさんら今をときめく方々までの古今の作家と、園子温監督や、漫画家の萩尾望都さんまで、様々な「本好き」たち52名が登場します。

彼らは皆、書物と無縁の生活は考えられないような人々であるわけですが、ある人は偏愛ぶりを披露し、ある人はツンデレ気味に語り…と、本との距離の取り方に著者の個性がよく表れていて、とても興味深く読みました。一遍ずつ感想を述べるような内容ではないので、「本好きあるある」的な、印象的な言葉たちを引用しておきたいと思います。

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「ずっと以前に読んで、こうだと思っていた本を読み返してみて、まえに読んだ時とはすっかり印象が違って、それがなんとも嬉しいことがある。それは、年月のうちに、読み手自身が変わるからで、子供の時には喧嘩したり、相手に無関心だったりしたのに、おとなになってから、なにかのきっかけで、深い親しみを持つようになる友人に似ている。(中略)優れた本ほど、まるで読み手と一緒に成長したのではないかと思えるくらい、読み手の需要度が高く、あるいは広くなった分だけ、あたらしい顔でこたえてくれる。」(須賀敦子

「私は読書をおのれの務めとして命じたことは、ただの一度もない。いつもその行為に多少の背徳を感じつつ、しかしやむにやまれぬ酒色や麻薬のように、なんとなく隠れ隠れ、読書を続けてきた。」(浅田次郎
 
「姿勢だけからいうと寝ころんで読むのが一番楽だし、自由である。(中略)だから、新しい本を手にすると、私はそれを持って寝ころびにゆく。部屋の隅、壁ぎわ、万年床といったようなところである。(中略)そういう隅っこでチビリ、チビリやりつつ本を読んでいるうちに眠りこみ、いつの間にか心臓が止まってしまった、というような死に方こそ祝福される死に方というものではあるまいかと、ときどき、考えることがある。」(開高健
 
「(宿泊先で眠れなくなって)活字中毒者は活字がない時の飢餓感に弱い。のどかきむしって悶絶化し、週刊誌でもないかと宿の中をうろうろしていると、宿の人に『何をしているのですか?』と不審度80%の目特徴で詰問されてしまった。」(椎名誠
 
「寝がけに読み始めた探偵小説に昂奮しちゃって翌る朝まで睡らず、翌る日は終日胃が悪くなって砂を噛むような飯を喰う事が時々あるのだから、嬶が呆れるのも無理はない。今頃中学校に通ったらキット落第するであろう。」(夢野久作
 
「この本を買ってしまったら、今月は友達と喫茶店に行けなくなる。(中略)でも…と私は決然と背筋を伸ばす。それでもいいではないか、と。そんなものはどうだっていい、この本を読める喜びとは比べものにならないのではないか、と。」(小池真理子
 
「大人のように生活との直接的な苦闘はないが、子供なりに過酷な現実から逃れたいという心情はある。書物はそうした世界から私を連れ出してくれるメディアとしてのみ、意味を持っていた。」(紀田順一郎
 
「あたしは酔って帰り、ベッドで寝ころびながら本を読むのが好きだ。しばらく本を読んでいると眠くなってきて、けれど我慢して次のページをめくる。そのうち、自分の頭の中に浮かんでいるのが、本のつづきなのか、夢なのかわからなくなってくる。」(室井佑月