無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

猫語の教科書(ポール・ギャリコ / 灰島かり訳)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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犬派か猫派かと問われたら、終始一貫、断然犬派の私ですが、犬派だった弟がひょんなことから子猫を飼い始めてからというもの、彼の家や実家に遊びに来ていたそのコと接するうち、なんだか「気になるアイツ」になってしまいました。弟が旅行の折には実家に預けられるのですが、いそいそとその姿を見に行ってしまったり…。

そんな心境の時に、坂崎千春さんの「片想いさん」の本に、本作「猫語の教科書」が紹介されていて、思わず手に取ってしまいました。ある日作者のポール・ギャリコの元に、編集者を通して、記号混じりのタイプ文字が羅列している原稿が届けられます。暗号文のようなそれは解読不能と思われましたが、なぜか彼はすらすらと読めてしまいます。中身はなんと、猫が綴った指南書。後世に続く猫たちに向けて、「猫がいかに人間を手なずけ、人間の家を乗っ取るか」のノウハウが書かれているのでした。
 


恐らく、猫派の皆様にしてみれば「何をいまさら…」と思われるであろう、猫派必読書と言って差し支えない本書には、人間たちを籠絡せんと、彼女たち(原稿の筆者は雌猫という設定)猫が元来備えている魅力を存分に発揮しつつ、あらゆる手練手管を弄している様子が描かれています。子猫の頃から哀れを誘って家に入り込み、食事を分け与えなかったり、室内で飼わないことに良心の呵責を感じさせるように誘導する仕草、どうしてもほしいものを手にするために使うとっておきの鳴き声…誇り高い彼女たちの、計算ずくの鮮やかな手口に、世の猫好きさんたちが、あっけなく陥落するのもさもありなん、と納得します。

気まぐれで自由奔放とされる猫の習性さえも、飼い主にとっては抗いがたい魅力そのもので、「わがままで困っちゃうんだよ」とヤニ下がる飼い主の様子は、百戦錬磨の女性の手玉に取られた男性さながらで…。しかし、かくいう私もまんまとその策にハマりつつあるクチです。だって、しなやかな身のこなし、愛らしい仕草を始め、猫が魅力的なことは事実ですから。弟の猫と散々遊んだ日は、なんだかバツの悪い思いをしながら帰宅して、いつもにも増して飼い犬を構ってしまうのは、まるで浮気男のようではありませんか…。

尚、巻末の解説が大島弓子さんなのが、さすがです。出版社の方も、わかってらっしゃる。