無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

きっと、うまくいく / 3 idiots~観賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際はどうぞご留意下さい。

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2010年インドアカデミー賞史上最多16部門受賞作品。生まれた時からエンジニアになれという親の期待に応えて、渋々ながら超難関の工科大学ICEに入学したファルハーンは、入学早々、破天荒な天才ランチョーと、貧しい生まれで家族を養うためエンジニアを目指しながらも、自信がなくていつも神頼みのラージューと知りあいます。

自由闊達な発想を持つランチョーに感化され、親友となった3人は大学生活を謳歌しますが、学問を究めることより、一流企業への就職を目的として学歴競争に拍車をかける校長にとっては厄介者としか見えず、「この馬鹿者ども!(idiots!)」とどなられてばかり。しかし、ピンチに陥っても「All is well(作中ではAal Izz Wellと訛っている)」=「きっとうまくいく」と唱えるランチョーのお陰で、3人は数々の困難を乗り越えてゆくのでした。

一方、卒業から10年後の物語も同時進行で描かれます。卒業後行方不明になっていたランチョーの手掛かりが得られたファルハーンとラージューは、勝手にランチョーに対抗心を燃やしていた同級生のチャトル、さらにランチョーのかつての恋人だったピアも合流し、ランチョーを捜す旅に出かけます。ランチョーはなぜ黙って姿を消したのか、そして、彼らが行き着く先にいるランチョーの今は…というミステリ仕掛けにもなっています。
 


ボリウッド映画がメジャーになって久しいものの、これまで私が観たインドにまつわる映画はスラムドッグ$ミリオネア(しかしこれはイギリス映画)や「その名にちなんで」程度と、微々たるもの。インド映画の人気に火がついた頃の作品の、突然歌って踊り出すミュージカル的展開と、現実離れした世界観、華々しいビジュアルが苦手だったのです。「きっと、うまくいく」は、あらゆる洋画を片っ端から観ている筋金入りの映画好きの母から勧められた作品で、インドの学歴社会を描いた青春ものというストーリーがとっつき易そうに思え、期待半分で観始めました。
 
結果、170分という長編も苦にならず、最初から最後まで飽くことなく楽しめました。友情、恋、家族愛、青春、貧困、陰謀、悲劇、笑い、ミステリー、涙、歌、踊りとあらゆるエッセンスがてんこ盛りで、それはそれはすさまじいエネルギーなのですが、過不足ないバランスによって、ひとつの物語としてすっきりとまとまっており、何よりも観客を楽しませるためのエンタテイメント性が抜群でした。所々で挟まれる歌とダンスも、ノリの良さとキレがあって楽しめました。

インドという国については語るほどのものを持たない私ですが、外資系企業勤務時代にインド出身のエグゼクティブ達をたくさん見てきた経験から、彼らの底知れぬバイタリティについては身を以って知っている者です。おそらくは出自によって、物腰穏やかで上品な坊っちゃんタイプもいれば、グイグイとのし上がってきたのであろう叩き上げタイプもいましたが、印象的だったのは、両タイプともに、ちょっとやそっとでは諦めず、身を引かない、いい意味でのしぶとさ・粘り強さ、そして清々しいまでのオプティミストが多かったことでした。「きっと、うまくいく」の中で、前述の「All is well」を何度も唱えて物事を乗り切っていく3人を見て、そのことをふと思い出しました。

インドや韓国、中国などの国における、世界のエリートを目指す競争社会は日本の比ではありませんが、この映画で描かれているように、学歴社会なりのひずみや悲劇も多いのでしょう。そんなリアルな日常も描かれている点も、この映画を好ましく感じた理由のひとつです。インド映画に対する先入観が随分払拭されたので、母の他のオススメ「めぐり逢わせのお弁当」「マダム・イン・NY」「スタンリーのお弁当」など、ちょっと本腰を入れてインド映画を観てみようと思いました。