駒場東大前「BUNDAN」～作品世界に思いを馳せて～
駒場にある日本民藝館と旧前田伯爵邸を訪ねた帰りに、同じく駒場公園内にある日本近代文学館併設のブックカフェ「BUNDAN」さんへ。
文学館を入って左手奥にある店内は、天井までの本棚に本が並ぶ図書館のような佇まいで、厨房で調理をする音だけが聞こえる静かな落ち着く空間です。文学館入口脇には屋外テラス席もあって、天気の良い日はこちらでも良いかもしれません。
文学館を入って左手奥にある店内は、天井までの本棚に本が並ぶ図書館のような佇まいで、厨房で調理をする音だけが聞こえる静かな落ち着く空間です。文学館入口脇には屋外テラス席もあって、天気の良い日はこちらでも良いかもしれません。
本とカフェの相性は言わずもがなで、本屋さんのそばにあるコーヒーの美味しい喫茶店で、はやる気持ちを抑えて買い求めた本を開く楽しみは何物にも代え難い至福のひとときだと思いますが、ヴィレヴァンのように本だけでなく雑貨や音楽も含めて総合的に楽しめるお店を始め、最近は隣接したカフェに本を持ち込める本屋さんもあり、本＋αの楽しみを提案してくれる場所が増えて本好きにとっては楽しさ倍増です。
こちらの「BUNDAN」さんは、文学館内のカフェならではのコンセプトで、著名な作家の作品や嗜好に因んだメニューが味わえるということなのでオープン以来ずっと気になっていたお店でした。
例えば、芥川龍之介が足繁く通ったという、銀座「カフェ・パウリスタ」さんのブラジルコーヒーを再現した、「AKUTAGAWA」ブレンドや、文豪ゲーテが愛した黒ビールのケストリッツァーシュバルツ、村上春樹さんの「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で描かれたメニューを再現した朝食、宇野千代さんが実生活で作っていたというそぼろカレーなど、メニューを開くと、その料理やデザートにまつわる作家のエピソードや著作の一文が付記されているので、本好きでもそうでなくても楽しめるラインナップです。
あいにく食事を済ませてしまっていたので、この日は梶井基次郎の「檸檬」にちなんだ檸檬パフェと、寺山修司が歌集で詠んだモカコーヒーから名づけられた「TERAYAMA」ブレンドを頂きました。サーブされるのを待つ間も、そばにある本を手に取ったり窓からの景色を眺めたり出来るので、ちっとも退屈しません。
檸檬パフェは、グラノーラの上にアイスやクリーム、そしてレモンのジュレやレモンピールなどで彩られた、後口爽やかなパフェで、甘いものは少しだけでいい私にはぴったりなサイズと味わいでした。「TERAYAMA」ブレンドも、さっぱりした後味でパフェと好相性。
他のお客さんのオーダーをこっそり見ていると、前述のそぼろカレーや、林芙美子「放浪記」に因んだ牛めし等が人気の様子。作家の好きだったものや得意料理を通じて生活ぶりが垣間見えたり、作品の世界を体感できるのが、とても面白いコンセプトだと思います。
実は私も、向田邦子さんや田辺聖子さんなど、お料理上手だったといわれる日本の作家の方々のレシピ本を愛読しています。殊に森瑤子さんの「森瑤子の料理手帖」は気に入りで、オイルサーディンの缶を熱して醤油と七味唐辛子を加えてご飯に載せるオイルサーディン丼は何度も作って、今ではすっかり自分のレパートリーの１つともなっているお料理です。BUNDANカフェにも「ヨロン丼」としてメニューに入っていて、なんだか嬉しいなぁと思ったことでした。
私の食いしん坊体質は幼少時代から筋金入りで、それは本を読むときにも健在です。小学生の頃には、「大きな森の小さな家」のインガルス一家シリーズで描写されている記述に「おいしいページ」と称したしおりを挟んで、塩漬け豚の作り方や、雪の中にメープルシロップを垂らして固めて遊ぶところなど、見たことも食べたこともないアメリカ開拓時代の食事風景を想像してわくわくしながら何度も読み返したものです。
今となってはその正体も分かりますが、当時はインターネットもない時代。特に海外作品の食べ物は想像に頼るしかなく、インガルス一家シリーズ以外にも、ミンスミートパイやキーライムパイ、豚の血のソーセージ、ガンボシチュー、ピタパンなど、未知のメニューの数々に思いを馳せていたものでした。
今でも、時代小説を読んでいて夜鳴きそばのくだりで無性に蕎麦が食べたくなったり、そんなに好きでもないはずなのにミントジュレップの描写がたまらず喉が鳴ってしまったり…作家の筆力はもちろんですが、見えないものだけに想像ががたくましくなってしまって数倍美味しそうに感じるのです。本の面白さって筋書きだけでなく、こういったディティールに想像を働かせるところでもありますね。
「BUNDAN」さんには、他にも気になるメニューがたくさんあったので、次回はこれと決めたメニューに合わせた本を持参して、それを読みながら過ごすのも楽しそう。
ごちそうさまでした。
2015年6月某日の旅先：駒場東大前「BUNDAN」 さん
