無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

北海道・釧路市「釧路湿原・サルボ展望台・サルルン展望台」

何年も前に、桜木紫乃さんの「凍原」を読んでから、ずっと釧路湿原に行ってみたいと思っていました。直木賞受賞作品のホテルローヤルはじめ、桜木さんの作品には釧路が舞台となっているものが多数ありますが、「凍原」釧路湿原自体が舞台となっており、ストーリーと共に、釧路湿原という場所に強烈な印象が残っていたのです。今回は諸々事情がうまく噛みあい、数年来望んでいた釧路旅行の実現と相成りました。




7:25羽田発のフライトは、早朝にも関わらず機内は満席です。平日ってこともあるのでしょうが、ビジネス目的らしい方以外は女性グループやご夫婦など年輩率高し。
 
ワクワクとたんちょう釧路空港の到着ロビーから一歩足を踏み出した途端、ぞくぞくっ。さ、寒いこの日は薄曇りということもあり気温は16~17℃。最近東京では湿度が高くなってきていたので、いきなりのひやっとした空気に晒されて、体感温度はかなり低く感じます。風が吹くと、さらに冷たさ倍増。私たちの後に到着口から出てきたご婦人グループも、あまりの寒さに悲鳴をあげていました。

空港連絡バスを利用して、50分ほどかけて釧路駅に到着。まずは、「くしろ湿原ノロッコ号」という、普通列車よりも窓が広い特別仕様の展望車がついた機関車で、釧路湿原を眺めながら移動するプランです。
 
駅構内は、社会科見学中の小学生や、団体ツアーのご年輩の方々などで、なかなかの賑わいです。発着ホームである3番線には既にノロッコ号が停車しており、記念に写真撮影している人も多数。
 
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ノロッコ号が走るのは、釧路と網走を結ぶ釧網(せんもう)線といい、この沿線には釧路湿原だけでなく、阿寒・知床といった国立公園が3つもあり、正に大自然の中を走る、北海道ならではの路線なのです。

ノロッコ号は11:06に釧路駅を出発。もちろん途中の駅で下車もできますが、まずはノロッコ号の終着駅である「塘路(とうろ)」という駅までの列車旅を楽しみます。いざ出発

私たちが座った二人掛けのベンチシートは、窓に面して平行に設置されており、ほぼ釧路川に沿って走る列車からの車窓を楽しむことができます。自宅から持参したサンドイッチと、構内で買ったコーヒーで朝食を取りながら、移りゆく景色を眺めます。

初めのうちはまだ市街なので民家が点在していますが、徐々に湿原地帯に。といっても、雄大過ぎてなかなかそのスケールを実感できない・・・。
 
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車内のガイドアナウンスによると、釧路湿原は日本最大の湿原地帯で、なんと日本の湿原地帯の60%を占めるのだそうです。湿原が形成されたプロセスは、陸地だった一帯に氷河期に海水が入りこむ⇒およそ6000年前にはすっかり海に覆われる⇒その後再び気温の低下に伴って海水面が低下⇒海水が引いて土砂や泥炭が現れ、現在のような湿原や沼地が出来上がったのだとか。
 
ガイドアナウンスは録音ではなく、乗車しているスタッフさんが、バスガイドさながらにマイクを持って解説してくれます。湿原の成り立ちや歴史、生息している動植物の説明の合間に、車窓から発見したキタキツネや、タンチョウヅルの姿を教えてくれるので、ライブ感があり、かなり楽しめます。残念ながらキタキツネは私の眼では捉えられませんでしたが、つがいのタンチョウヅルを発見できて、ちょっと興奮。
 
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水門や、湿原の名物レジャーとなっている釧路川のカヌー下りを楽しむ人たちなど、見どころのエリアでは、減速してゆっくり走ってくれるし、ガイドのお陰で湿原の知識も得られ、地平の「虫目線」で湿原の風景を存分に楽しむことが出来ました。
 
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11:50に終点の塘路に到着。約45分ほどの乗車ですが、あっという間に感じられました。乗客には乗車証明書が配布されます。

さて、ここからは駅から一番近い、「サルボ展望台」、「サルルン展望台」という2つの展望台まで歩き、「鳥目線」で釧路湿原の様子を眺めに行きます。
 
塘路駅では多くの乗客が降車したのですが、団体客は観光バスに乗って出発してしまい、駅からの道のりを歩いているのは私たちだけ。右手に塘路湖を望む、国道沿いのきちんと舗装された道ですが、標識も少なく、車の往来以外人の気配がないため、何となく心細い気持ちに・・・。

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駅から20分ほど歩き、この道で合ってるよね?と不安になりかけた頃、展望台へ続く入口に到着。ところが、なんと入口付近の道が崩れており、迂回路を通るようにとの標識が・・・。

更に10分ほどかけて迂回路入口に辿り着きましたが、ここから展望台までの道のりは、舗装されていない細いアップダウンの山道。
 
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普段山登りなどしない私。少々息が上がる程度の緩やかな傾斜ながら、左右を草木に囲まれたやや鬱蒼とした感じの道で、標識も少なく、ゴールがなかなか見えないのが不安を煽ります。

20分ほど進んで、やっと櫓のようなサルボ展望台が現れました!登ってみると、今通ってきた国道と釧網本線を挟んで左手に塘路湖の全貌が、そして右手にはエオルト沼を手前に、遥か彼方まで湿原地帯が広がっているのが見えます。
 
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逆側の標茶方面を望むと、こちらも湿原地帯。遠くの方には山並みも。タイミング良く先客もいなかったので、絶景を独り占め!頑張って登ってきた甲斐がありました。
 
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「サルボ」「サルルン」は、それぞれアイヌ語「小さな葦原」「湿原」の意味だそう。なるほど、葦は湿地帯に生育するものですよね。ちなみに、塘路アイヌ語由来で、「沼のある所」を意味するのだそうです。
 
そばに立てられた説明書きによると、この展望台は和歌山にある染業会社の私有地で、ご厚意で開放してくださっているんだそうです。こんな絶景を眺められるなんてありがたいことです。

更にそこから尾根伝いに歩いて次の目的地、サルルン展望台へ向かいます。こちらもアップダウンがあり、フキの茂みからたくさん虫が寄ってきて難儀しましたが、一方でウグイスのさえずりが耳に心地良く、それを励みに歩を進めました。サルボ展望台から約1kmほどの場所にある、サルルン展望台に到着。
 
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手前にサルルン沼、国道と釧網本線を挟んで、その奥に先ほどの塘路湖が望める景観です。
 
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右手を見ると、サルボ展望台よりも更に視界が開けた印象で、ここからの視界の全てが湖沼と湿原をたたえた釧路湿原であることを実感します。サルルン展望台にも誰もおらず、心ゆくまで景色を堪能しました。

本当はもうひとつ、湿原の西側と東側を結ぶ未舗装の道を行った先にある、コッタロ湿原展望台というスポットもあったのですが、時間と体力の関係でこちらは断念。たっぷり両方の展望台からの眺めを満喫し尽くし、再び塘路駅に戻ります。

14時に塘路駅に戻ってきました。帰りの電車までの時間を利用して、釧路駅構内で購入しておいた「いわしとさばのほっかぶりずし」で昼食。
 
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イワシとサバの酢漬けの上に、薄切りの甘酢大根を被せた握りが4貫ずつ入ったお弁当です。鰯には生姜、鯖にはワサビが、それぞれ大根の間に忍ばせてあり、青魚の脂のクセを中和してさっぱり頂けました。
ごちそうさまでした。