無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

難波「一芳亭 本店」~毎日でも食べたいってすごいこと~

所用のため大阪へ。
早めの夕飯を食べて東京に帰ることにして、南海難波駅近くにある「一芳亭 本店」さんに行きました。ずっと昔に読んだ故・小林カツ代さんの小林カツ代はこんなにいろいろ食べてきた」という著書で紹介されていたお店で、普段は大阪にはあまり縁がない分、是非いつか行ってみたいと恋しさ募っておりました。
 


この本は、商家のお嬢様として育ったご自身の大阪での思い出と共に、懐かしくも変わらぬ大阪の美味の数々を小林カツ代さんが綴った作品で、読んでいると今すぐ新幹線に飛び乗って大阪に行ってみたくなること請け合いです。

早い時間だったのに、お店の前には既に2組ほど並んでいました。入口の脇にはテイクアウト用の窓もあり、名物のしゅうまいをテイクアウトされるお客さんも。幸いにも10分ほど待っただけで2階席に案内されましたが、こちらも満席で、家族連れやカップル、若者のグループから年配のご夫婦と、正に老若男女勢揃いの客層です。

◆しゅうまい
まずはさっそく名物の黄色いしゅうまいを。

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小麦粉で作られた普通の皮ではなく、手製の薄焼き卵で作った皮で包まれたもので、これは戦後に小麦粉が入手できないことから薄焼き卵を代用したのが始まりなんだそうです。ごくごく薄いきれいなたまご色の薄焼き卵が餡にふんわり寄り添っていて、お母さんが赤ちゃんを優しく包んでいるようなイメージ。餡の具は豚挽肉と海老、玉葱のみじん切りで、味付けもとてもシンプルながら、ふんわりと柔らかくジューシーで、いくつでも食べられる飽きのこない美味しさ。1人前の5個なんてあっという間に食べ終えてしまいます。
 
後からHPを拝見したら、このやわらかな甘みを出すために、淡路島産の玉葱を使用されているのが、こだわりだとか。あんなに繊細な薄さの薄焼き卵で、ひとつひとつ手で包んでいるのということにも驚きです。他にはない、忘れられない味のしゅうまいでした。

◆春巻き
一般的な春巻きを想像していると、良い意味で見事に裏切られるのが、こちらの春巻き

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中華風のラップサンドみたいなのですが、これもオーダーしてみて大正解!たっぷりの千切り野菜(なんとキャベツまで)をこれまた薄焼き卵でぴっちり隙間なく包んでから、こんがりきつね色に揚げてあり、切り口の断面がとても美しい一皿です。具沢山で食べ応えばっちりですが、ヘルシーな具とあっさりした味付でちっともくどくありません。

◆ きも照り焼き
鶏レバーと砂肝、玉葱を照り焼きにした、きも照り焼き。これは、先述の「こんなにいろいろ食べてきた」の本の中で、カツ代さんがおすすめされていた一品。もう名前からして美味しそうだし、このビジュアルも間違いないですよね。プリプリとしたレバーとこりこりした砂肝、大きめに切られたシャキシャキ玉葱の組み合わせ、そしてビールを呼ぶ甘辛い味付けがたまりません。東京に帰りたくないなぁ…という心境になってきました。

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◆ 若鶏の唐揚げ
小サイズを頼んだのにその量にびっくりしたのが、これまた名物の若鶏の唐揚げ。筋骨たくましいというか、ほれぼれする美脚というか、いずれにしても豪快なフォルムですが、醤油で味付けした若鶏をバリバリに香ばしく丸揚げしたもの。自分で塩胡椒しながら頂きます。唐揚げは柔らかくジューシーなものが一般的には好まれるようですが、独特のぐにょっとした食感が苦手で普段は殆ど頂きませんが、こちらのクリスピーでしっかりした歯応えの唐揚げは好みと合致しました。シンプルな味付けだけに、肉の美味しさがダイレクトに伝わります。もちろんビールとの相性は言わずもがな。食べごたえもあり、これですっかり満腹に。
 
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右隣のテーブルのご夫婦も、左隣の席のおじさんも、ビールと共にしゅうまい唐揚げをつまみながら、幸せそうな飲みっぷり。あの海老天豚天も美味しそう…と、ついつい盗み見してしまいました。

「一芳亭」さんで頂いたお料理はどれもシンプルであっさりした軽めの味付けで、個性や主張を前面に押し出しているわけではないのに、明日またすぐに食べたくなるような中毒性を併せ持つものばかり。これは、お昼に入ったうどんの「今井」さんでも、お土産に買った「551蓬莱」さんの豚まんにも通ずる印象です。

決して構えて頂くようなことのない親しみやすい味。でもすぐにまた食べたいと思わせる懐の深い味。毎日食べても飽きない味というのは、毎日でも美味しく頂ける味ということです。小林カツ代さんは、そんな底力を持つ大阪の味で育まれたルーツを持っていたからこそ、毎日頂くためのさりげないけれど美味しい家庭料理のレシピを、あれほどたくさん生み出してこられたのかもしれません。

そして、生まれ育った人たちだけではなく、ただふらりと訪れた私のような者にとっても、記憶に刻まれる味として印象を残す大阪の美味。是非とも次回はしっかり計画を立てて、食いだおれることを目的に大阪を訪ねてみたいと思います。

ごちそうさまでした。

2015年7月某日の旅先: 大阪・難波「一芳亭 本店」さん

一芳亭 本店中華料理 / 難波駅(南海)近鉄日本橋駅日本橋駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5