無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

荻窪「割烹ゆず」~迷い選ぶもまた楽し~

大好きな作家角田光代さんが、ムック本「中央線とdanchu」で紹介されていた荻窪にある定食屋、「ゆず」さんでお昼を頂いてきました。
 
ランチタイムをちょっと外した午後1時すぎ。テーブル席は全て埋まっていましたが、カウンターは先客一人だけですぐに座れました。
 
こちらで頂くべきは選べる定食セット。ご飯とお味噌汁、香のものニ皿と一緒に、店内に張られたたくさんのおかずのお品書きの中からニ品、または三品選んでセットにするスタイルです。手書きのお品書きってそれだけで期待が高まりませんか?お店の外にも掲示されているお品書き同様、店内に張られたそれも、流れるような独特の筆体が美しく、何だか美味しいものが頂けそうな雰囲気を醸し出しています。

おかずのメニューは、魚は鯵のお刺身や鰹のたたき、焼き魚、フライも海老、牡蠣、鯵、メンチ、唐揚げなどずらり。他にも、とろろや冷奴、肉豆腐、まぐろ納豆、煮物の盛り合わせから豚しゃぶサラダなど、どれにしようか決めかねるほどの多彩なラインナップです。
 
「揚げものとさっぱりおかずの組み合わせか?」「魚と肉の組み合わせはちょっと盛り過ぎか?」「ええい、いっそ三品頼んでしまう?」と悩むことしきり、結局この日はメンチカツとまぐろ納豆のニ品に。(後からムックを見返してみたら、まるっきり角田さんと同じでした。どんだけ影響されているのか・・・汗)

偶然にも、店主の方の目の前に座ったことで、定食が運ばれてくるまでの時間も退屈せずにすみました。おひとりで黙々と調理されているのですが、コンパクトながら全てがあるべき場所に収まったキッチンで、流れるようなムダのない動きでオーダーをこなしている姿は、まるで何かの所作の「型」のよう。そんな光景に目を奪われている間に、私の分が運ばれてきました。
 
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粗めの揚げ衣をまとったメンチカツはゴツゴツとした岩のような見た目ですが、油切れが良くあっさり。挽肉と玉葱だけのシンプルな中身で、もしかしたらつなぎは使わず卵を多く使っているのでしょうか?食感もふんわり柔らかく揚げ衣の一部が卵焼き状態になっているほど、たっぷりの卵液にくぐらせてからパン粉をつけているような様相でした。
 
まぐろ納豆は、たっぷりのまぐろと赤身の色と、ぽってり卵黄の黄が華やか。納豆と和えると互いに良く絡みあい、ねっとりした食感で一つにまとまりじんわり美味しさが広がります。ご飯やお味噌汁も合間に挟んで食べ進んでいくと、何だか自分がとっても「正しい」食事をしているような気分になりました。どちらのおかずも一品だけであっても十分な量なので、お腹いっぱいになります。

私も普段は人並みに家で料理をしますが、おかずを二品三品並べる、いわゆる一汁三菜のバランス良い食事が良いとわかっていても、作る量の問題だったり段取りの拙さだったりで、なかなか理想通りにはいきません。だからこそ実は、こういう定食スタイルのご飯が、私にとっては襟を正したくなるような、至極真っ当な食事に思えます。

「ゆず」さんのおかずは、ひとつひとつはなんでもない普通のお惣菜に見えますが、それらをふたつみっつ、と選んで組み合わせることで、なんだかツボをくすぐられる献立に仕上がるのがいいなぁと思いました。夜は、以前は店名の通り割烹料理を出されていたそうですが、お客さんのリクエストに応じて今は昼と同じように定食が頂けるそうです。
 
もし私が料理をしない人間だったら、昨夜の飲み会で胃がもたれているから今日は冷や奴と野菜サラダにしようとか、今日は一日頑張ったからフライを入れて三品がっつりパワーチャージしようとか、毎日ここに通って一日のバランスを取ってしまいそうです。

角田さんは、「中央線とdanchyu」のムックよりも遡ること10年前にも、「たのしい中央線」というサブカル的ムックの中で、当時執筆のための仕事場があった荻窪でのランチ日記を公開していらしたり、西荻窪荻窪関連の特集を組んだ雑誌の中で、お住まいの西荻窪で行きつけのお店を紹介されていたりと、折にふれて地元愛を綴っていらっしゃいます。
 
「人生最後に定食を食べるとしたら」「ぱっと思い浮かぶ」お店として、「とくべつではない」けれど「ふつうにおいしいのだ、ぜんぶ」と、地元に根ざした「ゆず」さんを紹介されているのが、とても角田さんらしいなぁと感じました。
 

次回は、肉豆腐と、隣席の方が頼んでいた豚しゃぶサラダにしようかなぁ。ごちそうさまでした。

2015年7月某日の旅先: 荻窪「割烹ゆず」さん

割烹 ゆず定食・食堂 / 荻窪駅
昼総合点★★★☆☆ 3.0