赤坂「ホットケーキパーラーFru-Full」~オトナになって知った味~
大人になってからハマったもののひとつに、フルーツサンドがあります。実家では昔から果物を日常的に頂く習慣がなく、せいぜい旬の時期にいちごやスイカを食べるか、親戚筋から回ってきた上等な頂きもののフルーツの御相伴にあずかる程度でした。そんな環境だったので果物に対する思い入れが薄く、フルーツサンドも意識の外にありました。
初めてフルーツサンドに興味を覚えたのは、平松洋子さんのエッセイ「おもたせ暦」がきっかけでした。平松さんの筆にかかるとどんな食べ物も美味しそうに感じてしまうのですが、このエッセイでは、フルーツサンドに苦手意識があった平松さんが、ご友人の手土産を前にあっけなく陥落してしまう様子がさらりと書かれていて、逆にそれがとても印象に残ったのです。
さて、この日は「ホットケーキパーラー Fru-Full」さんで、それはそれは端正なフルーツサンドを頂きました。フルーツサンドは見た目の美しさも大切ですが、お行儀よくきっちり並べられたフルーツの彩りはもちろんピンと角の立った切り口の美しいことたっぷりのホイップクリームさえもはみ出ておらず、一糸乱れぬ佇まいとはこのことです。
単体でも十分美味しいフルーツをわざわざクリームとパンと組ませるのですから、フルーツサンドって実はなかなかに難しい食べ物だと思うのです。果物のみずみずしさが身上だけれど、果汁がパンにしみてべちゃっとしては台なしですし、果物の味を引き立てるためのホイップクリームが邪魔になってしまうのも本末転倒。
「Fru-Full」さんのそれは、甘さ控えめのクリームと、しっかりめの質感のパンが、影の立役者のごとくすっくとフルーツを受け止めていて、大きめにカットされたいちごとバナナ、キウイ、パパイヤの各々の甘味や酸味、そして新鮮な「果物感」がより際立っていました。「フルーツサンド」とは、果物をそのまま食べることとは全く別のもの、別の美味しさなのです。3つの要素がしっかり肩を組むかのようにバランス良くまとまっていて、どれひとつ欠けてもこの味は生まれないなぁ、という一体感がありました。
ところで「Fru-Full」さんは、惜しくも閉店してしまった「万惣フルーツパーラー」さんでホットケーキを焼いていた経験をお持ちの方がいらっしゃるそうで、ホットケーキも有名です。そもそもこの日は、万惣のホットケーキの味を懐かしがった母の提案でこちらに伺ったのでした。
しっかりと焼き色がついた端麗な姿。万惣を思わせる黒蜜ふうの濃い色のシロップが懐かしく、生地にじゅわっと染み込んだ一口に感無量…。アメリカ風のフルーツやホイップたっぷりのふわふわパンケーキもいいけれど、これこそは、日本が誇るフルーツパーラーのデザート、「ホットケーキ」と呼びたい一品です。
母にとっても郷愁を誘う味だったようで、親子共々とても満ち足りた気分になりました。食べ物の儚くも素晴らしいところは、こうしてお店が消えても味が記憶に残ることですね。
平松さんの本に導かれてフルーツサンドに出会ってからは、今はなき「万惣フルーツパーラー」はじめ「千疋屋」「新宿高野」各店の王道はもちろん、四谷「フクナガ」さん、京都の「ヤオイソ」さんと「ホソカワ」さん、三越前の「GELA C」さんなど、機会があれば逃さずあちこちのフルーツサンドを食べるようになりました。
これまで一番気に入っていた「レモン」さんが、日本橋高島屋からも新宿タカシマヤからも撤退して、名古屋に行かないと味わえなくなってしまった今、この日の「Fru-Full」さんとの出会いは私にとってとても嬉しいものになりました。
これまで一番気に入っていた「レモン」さんが、日本橋高島屋からも新宿タカシマヤからも撤退して、名古屋に行かないと味わえなくなってしまった今、この日の「Fru-Full」さんとの出会いは私にとってとても嬉しいものになりました。
とはいえまだまだ駆け出しの私、浅草「フルーツパーラー ゴトー」さん、目黒「リーベル」さんなど、味わうべきフルーツサンドは尽きず、さらなるフルーツサンド道を追求していきたいと思います。
ごちそうさまでした。
2015年7月某日の旅先: 赤坂「ホットケーキパーラー Fru-Full」さん