三越前「四川飯店 日本橋店」~きっと私は遠くにきてしまったのだ。~
コレド室町での映画鑑賞後に、「四川飯店」さんでランチを頂くべく伺いました。平日だから空いているかと思いきや、やはりそこは夏休み、映画館もレストランもなかなかの混み具合。映画の後の食事にをしようとすると終了時間が微妙なタイムゾーンであることが多く、ランチのLOに間に合わなかったり、夜はちょうど満席時の時間に差し掛かってしまったりいつも苦労します。
こういうときはあまり多くを望めませんが、「四川飯店」さんならば安心です。「ジュラシック・ワールド」なんて野蛮な(笑)映画を観た後なんですから、ガツンと辛いものを食べながら、手に汗握った感想を言い合うなんてぴったりです。
早々と感想を書いてしまうと、残念ながら私が想像していたものとはちょっと違うタイプでした。甘辛味にやや酸味が効いたジャージャー麺のような味付けで、辛さも痺れもそれほど強くない、極々シンプルな坦坦麺。これはこれで美味しいのだと思います。むしろそこは陳健一さんのお店、きちんと四川料理の特徴を踏まえながらも、クセは強すぎず、日本人の舌に合うように考え抜かれた味だと思います。試しに、同席者の麻婆豆腐もちょっと味見させてもらいました。うん、美味しい。けど何か物足りない…。
もしかしたら私は、四川料理が好きなあまり、あちらこちらで食べ過ぎてしまったのかもしれません。どうやら魅惑の麻辣の世界を突き進んでいるうちに、もはや陳健一さん(ひいては陳健民さん)が日本人に広めた、多くの人が美味しく楽しめる辛さや痺れのレベルでは飽き足らなくなってしまったのではあるまいか。
私の舌がレベルアップしたという話ではありません。ただ、今の私の舌は、「仙の孫」さんの汁なし坦坦麺を、「五指山」さんや「センヨウ」さんや「雲林」さんの麻婆豆腐を、求めてしまうようなのです。
そもそも私は「四川飯店」さんの麻婆豆腐が大好きだったのです。10数年以上前には近隣に勤めていたこともあって赤坂店でランチも頂いていたし、立川の「陳健一麻婆豆腐」さんもお気に入りでした。辛いだけではなく痺れる「麻辣」という美味しさを教えてくれたのは、紛れもなく「四川飯店」さん。そして我が家の麻婆豆腐は、こちらの作り方がベースとなっている花椒たっぷりのレシピ、というくらいなのです。
恐らく私のように、麻婆豆腐始め四川料理の美味しさに「四川飯店」さんで開眼した方は多いのではないでしょうか。四川の味を広く日本に知らしめ、こんなにも日常的に親しまれる料理にしたこのお店の功績は大きいと思うのです。しかししかし、だけれども…。
麻辣の魔境に足を踏み入れた私は、暫くの間は引き返すことはできないのでしょう。陳健一さんと、若き後継者、陳健太郎さんのお二人の写真が飾られた店頭の看板を背に、手放してしまった青春を惜しむような何とも裏寂しい気持で退店したのでした。
ごちそうさまでした。
2015年8月某日の旅先: 三越前「四川飯店 日本橋店」さん