無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

凍原 北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂(文庫)(桜木紫乃)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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釧路湿原旅行のページ
でも取り上げた作品「凍原」の、完全改稿した文庫本。内容が随分違うらしいと聞いて読んでみました。

表題からして、流行りの女性刑事シリーズっぽいサブタイトルがついてしまっているのに、まず違和感を感じます。物語の時系列も入れ替えてあるし、桜木紫乃さんの魅力でもあるちょっと突き放したような乾いた文体も省略されている箇所が多く、登場人物のセリフも常体から「ですます調」の敬体に変わっているなど、想像よりずっと大きく改稿されているのに面喰らいました。

何よりも驚いたのは結末で、事件を引き起こす動機としてはやや脆弱なのではという疑問が残りました。初めてこの作品を読んだ読者は、事件の背景に共感できるのかな?とも。

犯人が知り合う経緯が省略されているのは、もとの内容が一般受けし難いものがあったからなのでしょうか?確かにややショッキングな内容かもしれませんが、長らく秘密を抱えて生き永らえた者たちだからこその共鳴であり、そこに漂うどうしようもない悲哀に共感した私としては、文庫本は何だか小綺麗にまとめられてしまったように思えてなりません。

文庫化にあたって改稿したのは、その必然性も意図もあったのでしょうが、残念ながら私には的確に汲み取ることが出来ませんでした。大好きな作品だっただけに、残念です。