無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

弘前「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」~一期一会の難しさ~

弘前泊のこの日のディナーは、「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」さんで頂きました。
素材の自給自足を目指し、野菜やパスタ、パンのみならず、ハムや卵、チ-ズ、アンチョビまで自ら仕込んでいらっしゃるそうで、東北では「アル・ケッチァーノ」さんに次ぐ、地産地消イタリアンの先駆け的なお店ではないでしょうか。今回青森への旅行にあたり、真っ先に予約を入れたお店でもあります。

通りに面した2階にあるお店には、開店時間の18時に合わせて伺いました。間をおかずに満席となり、予約なしで訪れるには難しい人気のお店であることが窺えます。店名はオステリアですが、白枠の格子窓がエレガントな雰囲気。けれどリストランテではない肩肘張らないカジュアル感もあり、洗練とリラックスが程良く調和した店内です。五反田の「フランクリン・アベニュー」さんを思い出しました。

この日はおまかせのコースを頂きました。
1皿目は自家製のモッツァレラチーズ。添えられたバジルももちろんお店の畑の採れたてだそうです。
バジルの野性味にも負けないモッツァレラの力強い風味と、手作りならではの瑞々しさが印象的でした。
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パッサートというイタリアントマトを、きゅうりやハーブ、アップルビネガー等と合わせたガスパチョ風の一皿は、目にも鮮やかなグリーンに食用ハーブのブルーのアクセントが美しく、ルックス・味共に夏向きの冷製スープでした。
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続いて供された自家製のシャルトキュリーは、バラエティに富んだラインナップ。甘くとろける脂、絹のような舌触り、弾力ある歯応え、濃い旨味なのに澄みきったあとくち、と色々な風味が楽しめます。
(うっかり目を奪われてしまい、食べ進んでから写真を撮り忘れたことに気がついた痛恨の一枚)
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魚料理は甘鯛でした。ふっくらした身に、りんごを使ったやや甘めのソースをまとい、全体的に優しい印象の味付けでした。鱗焼きされた皮の部分がパリパリと香ばしく、いいアクセントです。
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パスタは2種。トマトの酸味ある甘さとウニのコクのある甘さが絡んだポモドーロベース&ウニのトッピングと、チーズベースのラビオリで、それぞれ違う趣向を楽しめました。手打ちパスタらしい、むちっとした歯応えが何とも言えません。 
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お肉は牛のビステッカでしたが、スペシャリテは馬肉であることを後から知りました。馬が良かった・・・。
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デザートはラズベリーのタルトと、ティラミスです。どちらも甘さ控えめで大変美味しかったです。
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盛り付けはどれも大変フォトジェニックな美しさで、ひとつひとつの素材が持つ力強さがしっかり味わえる、素材に対する自信を物語るようなお料理でした。やや味付けが控えめに感じられたのですが、素材の持ち味を活かすためなのかもしれません。そう、確かにどの素材も、生き生きとしていて美味しいのです。

一方で、素材の味が際立つほどに、口内で素材の味の確認が先立ってしまい、一品の料理としての全体像がぼやけてしまう印象だったのは、私の舌の繊細さが足りないせいかもしれません。例えて言うなら、名工製作のヴァイオリンの名器で爪弾かれる音色は甘美なのに、奏でられたカルテットによって心に刻まれる感動が薄かったような・・・。素材の個性が素晴らしく際立つあまり、まとまって「一品の料理」として新たな美味しさへと進化した時の感動が味わいにくかった、というのが正直な感想です。

また、サービスには十分な人数とお見受けしたのですが、客側ではなく厨房のタイミングでコースの流れが出来ているようで、あまりこちらを気にして下さっていないのかな?と、やや不安になった点も。
これも、もしかしたら私(と同席者)のペースががっつき過ぎだったのかもしれませんが、次のお皿が出てくるまでに少々間が空いたり、追加でお願いしたパンの温めに時間がかりお料理に間に合わないなど、幾つかぎくしゃくとした場面があり、結果的にパスタが出てくる頃には、多少お腹がくちくなってしまったのも残念です。後半の感想がややおざなりになってしまったのは、少々待ちくたびれてしまった感があったからですが、コース料理の醍醐味は緩急のリズムをつけたお皿の連なりを楽しむことでもあるので、流れが中断されてしまうと、味わう側の緊張感も途切れてしまうのです。

「ダ・サスィーノ」さんの、素材に目を行き届かせた真摯な姿勢も、地産地消の取り組みも本当に素晴らしいものだと思っていますし、素材の組み合わせや盛り付けのセンス、お店の雰囲気も含めて素敵な空間を作り出されているだけに、お料理のインパクトと接客サービスに心残りが出来たのは残念でした。
頻繁に通えるお店ではないので、この一回だけで判断したくはないのですが、一期一会だからこその印象は大きいものです。お店の哲学に賛同する思いは未だ変わりはないので、またいつか新たな気持ちで伺ってみたいと思います。

ごちそうさまでした。

オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノイタリアン / 中央弘前駅弘高下駅
夜総合点★★★☆☆ 3.0