無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

ジャイロスコープ(伊坂幸太郎)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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ジャイロスコープ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社
2015-06-26


伊坂幸太郎さんの作品では珍しい、連作ではない短編集。

インタビュー記事やあとがきで、よくご本人が語られているのが、ご自身の書きたいものと、世間から求められる「伊坂イズム」的なものとのバランスの難しさ。確かに過去の作品群を思い返しても、根底の伊坂さんらしさは同じでも、ボールの投げ方が違うという印象があります。この短編集に収められた作品も、それぞれに特徴があって違いがよくわかります。
 
私自身「オーデュボンの祈り」の鮮烈な個性にぶったまげて以来、伊坂さんの作品は欠かさず読んでいますが、やっぱり好きなタイプと苦手なタイプが(笑)。世間的には恐らく、巧妙に仕掛けられた伏線を回収してゆくようなタイプの作品が好まれるのでしょうが(もちろん私も好きですが)、そんな多くの読者を喜ばせたいという思いも、受け止めてくれる人に向けて狭いところにボールを投げたいというお気持ちも、どちらも読者思いの伊坂さんらしいなぁと思いました。そして、双方に向けてきちんと物語を届けるために書き続けられる力こそが、伊坂さんを若手実力派作家たらしめている所以なのでしょう。
 
この本を読み終えた翌日、電車で隣に座った会社員の方がおもむろに鞄から同じジャイロスコープを取りだし、愛用(らしき)のブックカバーをかけてから読み始める姿が目に留まり、「今回も、すっごく面白かったですよ」と、声をかけたい衝動を必死に堪えたのでした。


オーデュボンの祈り (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社
2003-11-28


伊坂幸太郎さんの他作品に関する読後所感
「サブマリン」
「陽気なギャングは三つ数えろ」
「火星に住むつもりかい?」