無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

逃避めし(吉田戦車)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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漫画家・吉田戦車さんが、仕事場として借りている部屋で作った料理のことを綴ったエッセイです。締め切りが迫っているのにも関わらず、いや、締め切り前だからこそキッチンに立ってしまう心理と、吉田さんらしい柔軟なセンスから生まれた、妙にそそられる数々の創作料理「逃避めし」が、イラストと共に紹介されています。

エッセイ全体の雰囲気は、吉田さんの漫画にも似たゆるさも漂っているのですが、料理自体は至極真っ当。豆腐百珍子母沢寛の「味覚極楽」池波正太郎の「食卓のつぶやき」「ひとまねこざる」などの本からインスピレーションを受けた料理を作ってみたり、故郷・岩手県で食べていた郷土の味を再現してみたりと、あくまでもベースは忠実に、決して奇妙奇天烈なアレンジではありません。意外にも(失礼!)作業は丁寧で細かく、時にはイノシシの肉を調理したり、毎年ずんだを皆に振る舞ったりと、気分転換になるほどに料理作業がお好きで、手慣れている様子なのも印象的でした。





伊藤理佐さんと結婚された後も、独身時代からの仕事場を利用していた吉田さんですが、後半からはお子さんの育児のために仕事場を自宅に移し、長らく「逃避めし」を生み出してきた部屋を手放すことに。ひとつ屋根の下で漫画家のお二人が仕事をする環境に変わり、これまでは外の仕事場で「逃避めし」を作っていたことで「一人欲」を発散させることが出来ていたのだと、吉田さんは気がつくのですが…。

ご自身の味覚の思い出や、伊藤理佐さんとの家庭生活などエピソードも満載で、漫画作品とは一味違う、吉田さんのリアルなお人柄が垣間見えて、とても面白く読みました。