無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

炎の塔(五十嵐貴久)& 防災本~今こそ、眠っていた本能を研ぎ澄ますべきとき~

9月12日2時30分現在、台風18号による大雨によって被災された地域において、亡くなられた方のご冥福を深くお祈り申し上げますと共に、被災された皆様とご家族の方々に、心よりお見舞い申し上げます。未だ安否不明の方々については一刻も早く無事発見の報がもたらされることを、そして救助活動に尽力されている全ての皆様のご無事をお祈りしております。

今回の一連の報道を見て、被災地の方々の窮状に対する心痛や働きかけとは別に、私がとりわけ強く感じたのは、やはり自分の身は自分で守らねば、という「我が身を守る意識」でした。東日本大震災はじめ世界各地で起きた自然災害を見てきて、自然の脅威に到底敵わぬ私たち人間の無力さを、そして「まさか」はあり得ないのだ、と私たちは思い知ったはずでした。今回の出来事は、自然災害は決して対岸の火事ではなく、いつ何時でも自分の身に降りかかってもおかしくないことなのだ、と改めて見せつけられた思いでした。

もはや、自分や大切な人たちの安否を他人まかせにしている場合ではありません。自分の身を自分で守るためには、受け身に徹することなく、行政発令を待たずして自ら情報を収集し、自分で危険察知のアンテナを張っていなければ、自然の威力には対抗できません。まずはその前提に立った上で、皆で助け合って危機を乗り越えるべきなのだと痛感しました。

※以下は、読んだ本について本件と関連付けた感想を述べたものですが、あくまでも個人的な見解です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所がありますので、まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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鬼怒川決壊のニュースが入る直前に読み終えた本が、五十嵐貴久さん「炎の塔」でした。
映画「タワーリングインフェルノ」にインスパイアされた、と筆者ご自身があとがきで書かれているように、高さ450mと日本一の超高層タワービル完成日に火災が発生し、炎の魔物に覆い尽くされたビルの最上階に取り残された多くの客を救うために、消防隊員のヒロイン始め消防庁、警察、自衛隊らが決死の覚悟で消火・救助活動にあたるというストーリーです。

物語の軸となるヒロインの人物設定始め、五十嵐さんのオリジナリティが加味されたストーリーで、決して映画の踏襲で終わっていない作品だと思いますが、その中でも印象に残った2点は、恐らく、東日本大震災を目の当たりにした日本人の一人である五十嵐さんだからこその描写であり、五十嵐さんが作品に込めたかった強い願いだったのではないかと感じました。

1点目は、タワービル関係者の多くが、防火設備に関して「絶対安全」という根拠のない自信を持っており、未然に防げるはずの段階でも「まさかそんなことが」と疑うばかりだったこと。彼らのその態度は明らかにデフォルメされていて、読者の私たちは「こんなに危機管理が薄いなんて有り得ない」とさえ思ってしまうのですが、それは客観的に読んでいるからこそ。敢えてのデフォルメには「貴方は本当に彼らと違う?」という皮肉が込められているようで、実際私たちの危機管理の希薄さは、もしかしたらこんなものなのかもしれないと思わせる設定でした。

2点目は、東日本大震災を経験した親子が、動物的ともいえるカンに従って誰の手も借りず自ら逃げ延びる様子が描かれていること、そしてヒロインに向けて「優秀な消防隊員こそ臆病だ」というフレーズを用いる場面があることです。私はこれを、「我が身と大切な人たちを守るためには、臆病なほどに危険に敏感であって良いし、危機を感知した自分の信念に従って行動すべき」というメッセージと捉えました。

私たちはこれまで安寧の日々に慣れ過ぎて、動植物たちが敏感に身の危険を察知するような危険センサーを、いつしか失ってしまったようです。私は運命論者ではありませんし、災害に意味があるなんて思いたくもありませんが、今回の惨い災害に強いて何か意味を見出すとすれば、私たちにもう一度「自己防衛」の意識を思い起こさせるきっかけが与えられたのだと思うしかありません。今こそ、私たちが本来備えていた危機を察知する本能を呼び覚ますときなのでしょう。そして、私たちが生み出したきた知恵や技術を最大限に活かした「備え」こそが、自然の脅威に対して人間が対抗出来るであろう「唯一且つ最大の防御」なのだと思います。

おりしも東京都では、9月1日の防災の日に「東京防災」ブックが配布されました。
個人的には行政がやることに時に突飛なものを感じたりもするけれど、こと防災意識に関しては、この本に書かれていることに賛同します。防災はやってやり過ぎることはありません。ここは謙虚に身を引き締めて、彼の地で難局に直面している皆様を案じつつ、自分が出来る備えを再確認したいと思いました。

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