無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ / Only Lovers Left Alive~鑑賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所がありますので、
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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監督を意識して映画を観ることはあまりないのですが、ジム・ジャームッシュ監督だけは別です。
映画好きの両親が集めていた映画パンフレットのコレクションを見て育ち、字幕もよく追えない頃から劇場の椅子に座らされていた私の嗜好は多分に両親の影響を色濃く受けているのですが、お小遣いで「スクリーン」や「ロードショー」などの映画雑誌を買い始めて、自分なりの映画に対する思いや好みが形成されつつある時期に出会ったのが、ジム・ジャームッシュ監督です。

ストレンジャー・ザン・パラダイス」は、なんだか分からないけどとにかくカッコいい!と、頭で考えるよりも先に気持ちが反応するという、私にとって衝撃的な作品でした。素っ気ないモノクロ画面から漂うそこはかとない切なさも、決してイケメンではないのに飄々とした佇まいがたまらないジョン・ルーリーも、テーマ曲の「I Put A Spell On You」も、それまでの私の定義とは全く違う「カッコ良さ」で、そんなふうに親世代とは違う視点を持つ自分にも、何だか誇らしいような不思議な高揚を感じたものです。

「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」は、現代に生きるヴァンパイア・アダムとイヴの夫婦を描いた作品で、主役の二人、トム・ヒドルストンティルダ・スウィントンがこれ以上ないハマリ役。美しい音楽と芸術的な技巧から生まれた楽器を愛でる、かなりペシミストな孤高のミュージシャン・アダムと、母のような包容力と惜しみない愛情で彼を包むリアリストのイヴの二人は、映画史上ベスト10に入りそうな素敵なカップルです。

生きる糧となる血の調達のために医者に扮して病院に忍び込んだり、指を切った隣席の男性から流れる血に思わず唾を飲み込んだりと、人を食ったようなユーモラスな場面もある一方で、彼らが永い間見てきた人間たちの歴史上の蛮行や、破滅的な愚行に毒舌を振るうシニカルな場面もあって楽しめます。とぼけたおかしみとたとえようのない物哀しさ、耳に残る音楽と、ミュージックPVのような印象的な映像が、非常にジム・ジャームッシュ監督らしい作品だと思いました。

ジャームッシュ監督は、登場人物をとても魅力的に撮る人だと思うのですが、特に女性の撮り方が素敵だなといつも感じます。「ストレンジャー・ザン・パラダイス」では気だるげで笑顔も少ないエスター・バリントがやたら素敵に見えましたし、「ナイト・オン・ザ・プラネット」では咥え煙草のウィノナ・ライダーと、貫録たっぷりのジーナ・ローランズがやっぱり一番記憶に残りました。この作品でも、優しさと強さを兼ね備えたイヴ役のティルダ・スウィントンの、ヴァンパイアという役柄以上に超人的な美しさが強い印象を残していますし、イヴの妹のエヴァ役として後半に現れるミア・ワシコウスカは、登場シーンは僅かながら、我儘で奔放な小悪魔的魅力を存分にたたえていました。

なんだか分からないけれど、惹きつけられてしまう。映画には、こんなふうに説明のつかない「好き」との出会いがあります。個人的な思い出も含め、映画の世界に夢中になった原点を思い起こさせてくれた一本でした。