無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

今日も一日きみを見てた(角田光代)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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角田光代さんTwitterをフォローしていますが、飼い猫トトちゃんの登場回数のなんと多いことか(笑)!猫歴がなかった角田さんが、ある日やって来た(実際は漫画家・西原理恵子さんから譲り受けた)ちいさな生きものの行動のすべてにいちいち驚かされ、心揺さぶられ、ご自身でも想像していなかった感情の芽生えを認識する様が、誠実で思慮溢れる文章で綴られたエッセイです。

私の場合は猫ではなく犬だったのですが、それまでペットを飼ったことのない私が動物との暮らしの中で感じてきた全てを、角田さんがその豊かな文章力でもって代弁してくれているかのような内容で、何だか嬉しい気持ちが止まりませんでした。

自分はもしかしたら「無心に愛情を注ぐ」ということが出来ない人間なのではと考えたことがあり、こわごわと犬を飼った私ですが、角田さんがBC(Before Cat)とAC(Aftere Cat)で世界が変わったと記されているように、私も生きものを飼うようになってから世界が一転しました。角田さんも書いておられるようにペットは決して我が子ではなく、人間の親子になぞらえるようなものではないけれど、時に微笑ましく時に腹立たしく成長を見守ること、弱ったり怪我をしたときには胸が潰れる思いがすること、そしてその小さきものの存在が、生きる支えの一つとなっていることなど、少なくとも子供を持つお母さん方の気持ちを慮れるような感情が、自分にもあることに気がつかされました。

それにしても、トトちゃんはなんと奥ゆかしく優しく、愛らしい猫なのでしょう。最後の章には、角田さんが西原さんからトトちゃんを譲り受けることになった理由が記されているのですが、猫をあげる提案をされた西原さんの思いにも胸打たれ、角田さんとトトちゃんは出会うべくして出会ったふたりなのだと思いました。

猫や犬、その他動物全般を愛する人はもちろん、生きものを飼うなんて想像もつかないような人も、この作品の中に、縁あって築かれた関係にただただ感謝するシンプルな愛情の姿を、見つけることが出来ると思います。

角田光代さんの他作品に関する読後所感
「坂の途中の家」
「私的読食録」
「世界は終わりそうにない」
「おまえじゃなきゃだめなんだ」