無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

小金井「Woodstock ウッドストック」~五感で楽しむ料理の真意~

病気持ちになってからは食が細く、体力的なこともあり外食頻度が少なくなってしまった父ですが、なぜか時折無性にハンバーグだけは食べたがります。年と共に嗜好は変わるとは言え、昔は殊更好物というわけでもなかったのに、面白いものです。

今回は敬老の日にかこつけて、なかば強制的に実家の両親を「ウッドストック」さんに連れ出しました。
小金井公園の前にある「ウッドストック」さんは、35年変わらぬ味を提供し続けているハンバーグとステーキのお店で、慣れ親しんだ我が実家の外食先の一つでもあります。小さい頃は兄弟3人、大喜びで連れて来てもらったものでした。

特徴的な俵型にまとめられた手ごねのハンバーグの炭火焼きが有名ですが、父のような年配者やお子さんに嬉しいサービスが、シルバーサイズ(65歳以上限定)やお子さま用など、グラム数が少ないハンバーグとステーキが用意されているところ。食べられる量が異なる3世代家族で連れ立って行っても安心なので、昔からこのお店には家族連れの姿が多く見られます。

この日は、私がハンバーグ&炭火焼サイコロステーキ、父はシルバーハンバーグ(120g)、母はジャンボハンバーグ(180g)を。それぞれ熱々の鉄板に載せて運ばれて来るのですが、チャコールの香りと肉の焼ける芳しさに、一気に気分も食欲もアガります。
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この時点ではまだ表面に香ばしい焼き目がついているだけで、まだ中はレア状態のハンバーグですが、お店の方が卓上でカットし、各自オーダーした焼き加減になってからソースをかけてくれます。デミグラス、おろしミックス、ガーリック、ショウガ、クリーム、カレー、ソイビーンズ、ニンニクしょうゆ8種から選べるソースがかかった途端、じゃーっとはぜるソースの音と煙。これこれ、この感じ!すかさずナイフを入れてひと口。熱々のハンバーグからは肉の旨味がじゅわっと溢れ、安定の美味しさにため息が出ました。
 
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今まで何度も体験しているはずなのに、私も両親もこのパフォーマンスに自然とワクワクしてしまうのは、もう条件反射のようなものかもしれません。そして実はこれこそが、父との外食先に「ウッドストック」さんを選ぶ理由でもあるのです。持病のせいで失明してしまった父は、残念ながら店の様子も食卓の上の光景も目にすることはできません。けれど、鉄板が運ばれてきた時の炭火焼の香りやソースが弾ける音、鉄板から発せられる熱気、そして目が見えた頃に家族と共にこの店で料理を囲んだ記憶、と父が今持つ感覚で食事を楽しめる要素が備わっているお店なのです。

食事の場面では、美しい盛り付けや繊細な味付けなど、目や舌で楽しむ要素が一番大きいのですが、音や香りや記憶といった要素もまた、料理の美味しさを形づくるひとつであると、私は父の病気から学びました。視力がなくなった分、より研ぎ澄まされた他の感覚をフルに使って楽しめるような食事は何か、といつも考えます。同時に私自身も、目だけに頼らず五感をフルに使って、出されたお料理をしっかり頂きたいと考えるようにもなりました。

最後まで熱々のままハンバーグとステーキを堪能し、満足して店を出ると、入口の外まで長い列が。駅からはちょっと離れた場所にあるにもかかわらず、さすが長年地元民に愛されてきたお店です。

年老いた父はお店の行き帰りだけで疲れてしまったようですが、昔と変わらぬ味をこの地で提供されている「ウッドストック」さんのお陰で、親子揃って懐かしくも美味しいひとときを過ごすことが出来ました。
あと何回機会があるかはわかりませんが、次回も両親と一緒に再訪したいと思います。
ごちそうさまでした。

2015年9月某日の旅先: 小金井「Woodstock ウッドストック」さん

ウッドストックステーキ / 東小金井駅花小金井駅武蔵小金井駅
昼総合点★★★★ 4.0