無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

上野広小路「ぽん多本家」~鎮座ましますご令嬢~

体重計のデジタル表示に怯えながらも高カロリーな食事をやめられないわりには、から揚げやフライなどの揚げ物がさほど好物ではないのは、私にとっては不幸中の幸い。けれど、とんかつだけは別格です。とんかつってなんであんなに美味しいんでしょうね?豚肉料理の一等賞は、私の場合、とんかつかもしれません。

真夏の間はさすがに失せていたとんかつ欲も、皮膚を刺すような日差しが影を潜め、秋の気配が感じられた途端にむくむくと再燃。東京国立博物館に出掛けると決めた日、ならば上野広小路「ぽん多本家」さんで腹ごしらえをしなくては!と、こういう時のヒラメキの早さは、我ながら惚れ惚れします。

ランチタイムピーク前の11時に、2階窓際のテーブル席に腰を落ち着けました。ご存知上野とんかつ御三家のひとつである「ぽん多本家」さんですが、とんかつ屋さんというよりも、昔ながらの上品な洋食屋さんといった趣で、事実このお店のとんかつは、「カツレツ」というハイカラな呼び名です。

何とはなく襟を正して頂きたいような気持ちになるのは、清潔で落ち着いたお店の雰囲気と、そのお料理の上品な佇まいのせいかもしれません。勝手ながら、新橋の「燕楽」さんはおとっつぁん、東銀座「にし邑」さんは懐の深いおふくろさん、小川町の「ポンチ軒」さんはダンディな伯父さん、高田馬場の「成蔵」さんがイケメン兄さん、そして「ぽん多本家」さんは由緒正しいお嬢様、というのが私の中の東京とんかつ各店のイメージなのです。

ラードの香りも芳しく、金縁の洋皿に鎮座して運ばれてきたカツレツは、初めて見たときは「これが正真正銘きつね色だ!」と衝撃を受けた美しい色の揚げ衣に包まれ、奥ゆかしい気品を漂わせています。
 
20090327 ぽん太 カツレツ

サクッと音を立てる衣、優しく火が通ってしっとりとした肉の間から、ひそかな甘さをたたえた旨味が染み出て、舌が、キャベツを!ご飯を!ここに!と騒ぎ立てます。カツレツ単体は言うまでもなく極上の旨さですが、豚の脂のなめらかな甘みとキャベツの瑞々しい甘み、お米の甘みが一体となった時の旨さは、とんかつならではの味わいではないでしょうか。ご飯もキャベツもきちんと美味しくて、泣きたくなるほどの相性の良さです。
 
20090327 ぽん太

カツレツの気品に合わせて、こちらも優雅に頂きたいところなのですが、湯気の立つ赤だしやたくあんの歯応えを合いの手に、箸を置く間も惜しんで、突き動かされるように食べ進む衝動を抑えられませんでした。

あぁやっぱりとんかつ、美味しいなぁ。もう少し秋が深まってきたら、今度は名物タンシチューを目当てに伺いたいと思います。ごちそうさまでした。

2015年9月某日の旅先: 上野広小路「ぽん多本家」さん

ぽん多本家とんかつ / 上野広小路駅上野御徒町駅御徒町駅
昼総合点★★★★ 4.0