無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

美ヶ原温泉「すぎもと」~怒涛の美味しいもの尽くし~

松本から足を延ばす温泉としては扉温泉にある「明神館」さんがお気に入りなのですが、今回はもうひとつの有名どころとして気になっていた、美ケ原温泉の「すぎもと」さんを初訪問。
家族経営主体のようで、想像していたよりもアットホームで、良い意味で地元らしさが漂う旅館でした。

チェックイン時間に合わせて伺い、混まないうちに貸切露天風呂のさざれの湯でさっそく湯浴み。寝湯のような造りで、湯はぬるめな分ゆっくり浸かれ、気持ち良さにうたた寝してしまいそうでした。

すっかりリラックスしたところで、待ちに待った夕食です。信州の民家を再現した掘りごたつ式の食事処は、周りの席とのスペースも十分にあり、あたたかい光の中、落ち着いて食事を楽しむことが出来ました。

◆ひたし豆&信州牛ときのこの陶板焼き
テーブルの上には、ひたし豆の器と、信州牛ときのこが載った陶板が用意されていました。
ひたし豆は、上品で程よい塩気の出汁で、温泉で火照った体にすっと染み込んでいく優しい口当たり。
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のっけからステーキとは意外でしたが、少量なので逆に食欲に火がつき、湯上りにくっと流し込むビールと相まって、堪えられない旨さです。柔らか過ぎない適度な歯応えの肉から滲む肉汁に絡まったタレがまた美味しくて、次のお皿への期待が高まりました。 
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◆山菜のプレート
突き出しは、空豆、蕗の煮物、こごみの茹でたもの、ふきのとうの味噌和え、地鮎の南蛮漬け、わらびのおかか和え、行者ニンニク、筍。山菜はメニューにあれば必ず頼むほど大好物なので、こうしてあれこれちょっとずつ頂けるのは嬉しいです。新鮮で全くエグみがなく、山の恵みを頂く喜びを味わえる一皿でした。つまみとしても秀逸で、これで早くも一杯目のビールは空に。
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◆鮭の一口鮨、空豆のすり流し風のスープ。
鮭の紅色と、薄緑がかった乳白色のスープの色合いが美しく映えます。空豆のスープは枝豆ほど濃厚ではなく、あっさりとした口当たりです。するりと冷たいスープが喉をおりていく気持ちよさが味わえました。吸い口代わりのじゅんさいの、つるりとした喉越しも楽しい一杯です。
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◆鮎のなめろう焼き
鮎をこうして頂くのは初めてですが、薬味にも負けず、柔らかくほろほろとした身の上品な口当たりも消えていないことに驚きました。シンプルな塩焼きが一番と思っていましたが、こんな頂き方もあるなんて!と新しい美味しさにただただ感嘆しました。 
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◆馬刺し
いよいよ待ちに待った馬刺しが登場!このみずみずしく鮮やかな赤色といったら・・・写真を見返すだけでも喉の奥が鳴ります。肉なのに清らかでさっぱりとした喉越しと称したいような食感で、弾力がありながらも柔らかい歯応えが刺身ならでは。文句のつけようのない旨さでした。こんなにたっぷり食べられるのも、馬刺し好きにはたまりません。生姜や紫蘇の実、葱や茗荷といった定番以外に、信州味噌を使った辛味噌や、山葵入りのたれなど薬味も充実しているので、最後まで飽きずに食べられます。
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◆鰹のたたき
特筆すべきはポン酢の美味しさ。7月に行った高知で塩たたきが一番と感じたばかりなのですが、美味しいポン酢で頂くたたきは、やっぱり間違いのない食べ方なのだと再認識出来ました。 
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◆椎茸ピザ、根曲がり竹
肉厚の椎茸に、ソースとチーズを乗せて焼いた椎茸ピザは、お酒のアテに最高です。根曲がり竹の焼いたものが添えられていますが、これは結構希少価値だそうで、アクが少ないからこそ、こうしてシンプルに焼いて食べることができるのだとか。
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桜海老のピザ
この辺りでかなりお腹がくちくなってきたのですが、それでも手が止まらなかったのが桜海老のピザ。パリパリの生地に、たらこソースのようなクリーミーなソースが塗ってあり、たっぷりのサクサク桜海老と好相性!病みつきになる味でした。
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◆青豆豆腐、野菜のグラタン
終盤に、出来立ての青豆豆腐と、野菜のグラタンが。優しくクリーミーな口当たりの二品ですが、正直このあたりでもうお腹一杯に・・・。
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◆手打ち蕎麦
館主が打つ手打ち蕎麦がこちらの名物であることは有名で、評価には賛否両論あるようですが、私は好きなタイプの蕎麦でした。澄みきったつるつるとした喉越しは紛れもなく蕎麦なのですが、そばがきを頂く感覚にも似て蕎麦粉感を強く感じました。けれど、決してボソボソとした感触はなく、お腹いっぱいでもつるっと入ってしまう喉越しの良さ。蕎麦粉の香りと甘みが際立っているので、つゆにつけるのが勿体なく思え、塩をつけて頂いてもみたのですが、その味は美味しいお米で握った塩むすびを頂くようでした。
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実は、〆の釜飯もあったのですが、私はとても入らず同行者頼みに。写真も撮り忘れてしまいました…。
とにかく品数が多く、どれもお酒を呼ぶ品々で、久しぶりに限界越えの満腹感を味わいました。とはいえ、酒肴とひとくくりにできるほど濃い味付けではなく、同行者のような下戸にとっても、味付けも量も満足のいくコースでした。また、私たちの席について下さったのが、口ぶりからすると恐らくご主人の息子さんで、お料理について何を伺っても、丁寧に詳しく説明して下さったのがとても印象的でした。

◆朝食
翌朝の朝食は干物や湯豆腐などが並ぶ、温泉旅館ならではの純和風の朝ごはんでしたが、朴葉味噌焼きが出てくるのが長野らしいところ。
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お部屋や温泉については特別な印象はありませんでしたが、今回はお料理が目的で来たのでさほど気になりませんでした。信州の食材を様々な形で酒に合う料理として提供する館主の心意気が感じられるメニューは楽しく美味しく、大正浪漫風の内装や松本民芸家具など、ご主人の趣味がしっかりと反映された館内の設えも含めて統一感があり、こういうブレない個性は素敵だと思います。
 
ただ、蕎麦打ちの見学や自慢のロビーの滞在を勧められる点には、こだわりの押しつけと感じてしまう方も少なくないと思います。佇まいの美学は、黙して語らずこそ深く感じ入ることが出来るのでは、と思う一方で、そこをしっかり元気にアピールするところにも、ちょっと微笑ましいものを感じました。

今回は近いからこそできる、観光なしの一泊二日の弾丸でしたが、美味しいお料理だけを味わいに行ったような、ちょっと贅沢な旅となりました。
ごちそうさまでした。

2015年9月某日の旅先: 長野県美ヶ原温泉「すぎもと」さん 

旅館 すぎもと旅館 / 松本駅北松本駅西松本駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5