無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

熱海「レストランスコット旧館」~年季が入った味と趣~

誕生祝いや敬老祝いなどひっくるめ、日頃お世話になっている諸々の感謝を込めて、親戚筋を連れて一泊旅行に行くことと相成りました。お年を召した彼女らの体力や、海が見える所に行きたというリクエストも踏まえた結果、今回の旅先に定めたのは、静岡県は熱海です。

その昔は新婚旅行のメッカで全盛期もあったと聞く熱海ですが、私にとっては、長らく車や新幹線で通過するだけの街であり、距離的には近いけれど遠いイメージを持っていました。何もかも初めてだったので、まずはガイドブックで一からお勉強。

一時期はその廃れ具合が随分取り沙汰されていた熱海ですが、地元の方々の地道な努力によって随分活気を取り戻しているようで、駅前の通りは大賑わいでした。熱海駅の改修工事も進んでいて、駅前の足湯はひときわ人気のようです。

私たちはと言えば、今回の旅はあくまでも親戚筋メインだったので、初島を臨む海を一望できる旅館も、一泊二日の過ごし方も、いっそ清々しいほどに王道を貫き、ガイドブックに掲載されているようなわかりやすい旅程にしました。とはいえ、食の周辺は王道を踏まえつつ、私が行ってみたいと思う店に限りなく近づけたので、ほぼ私の意向が反映された結果です(笑)。

「スコット旧館」さんは、谷崎潤一郎志賀直哉村上春樹鈴木信太郎(我が街西荻の「こけし屋」さんや、「マッターホーン」さんの包装紙でお馴染みですね)など、文豪や芸術家などの著名人が足繁く通ったことで知られる有名店とのことで、今回の旅のセオリーにぴったり。私自身も興味津々で伺いました。

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13時にお店に到着した時点では2組=9名のご婦人方が並んでいる状況でした。列に並んで延々待つのは元来苦手なのですが、すぐそばにある新館を含め、定休日にあたるお店が多い曜日だったせいで、他に代案がないため、ぐっと辛抱。LOは14時と言えど、仕込み材料が終わった時点で、昼の営業が終了となる旨が店頭に掲示されていたので、40分という近年私史上最長の待ち時間を経て、お店の奥のテーブル席を確保することが出来た時には、ただただ安堵しました。平日でこうですから、休日はもっと待つことになるのかもしれませんね。

ビーフシチュー
創業以来変わらないレシピで作られているというビーフシチューは、年季の入ったコク深いデミグラスソースが際立つ、名物メニューという触れ込みも納得の味です。塩気がきつくなく、ライスやパンなしでも頂けるような優しい味付けですが、決してぼんやりとした輪郭ではなく、しっかりとした旨みが味わえます。ほろっと崩れ、口の中で優しくたわんだ後にすっと溶ける、牛肉の柔らかさも特筆ものです。

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◆ ハンバーグステーキ
クラシックなお店の雰囲気に似合う、古き良き洋食といった趣のハンバーグです。肉々しいワイルドさとは無縁の、しっかり捏ねられたふんわりとした柔らかさが身上というタイプのハンバーグで、ナイフを入れたそばから溢れる澄んだ肉汁が、たっぷりかかったデミグラスソースと混ざると、また違った味わいに。ライスに合うハンバーグでした。

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どちらも美味しさの点では満足でしたが、いかんせん量も小ぶりで上品なので、お値段(ビーフシチュー3132円、ハンバーグ1620円)に見合った満足感という点で考えると、やや物足りなく思えました。得てして洋食はお値段高めな傾向ですし、東京で頂くと同価格かそれ以上になることもあるのですが、それに見合うだけのインパクトや満足感が得られるのも事実です。

今回は高齢者連れですし、夜の旅館の食事を控えた胃にはちょうど良い量とも言えましたが、私自身は「あともうちょっと…」と感じてしまいました。もしかしたら、かつての文豪や画家たちはそうしていたのかもしれませんが、食事として頂くのではなく、ビールやワインと共に楽しむために、ちょうど良い量設定なのかも・・・?
 
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とはいえ、年月の重みを感じる深い旨みは、さすが老舗の正統派の味と言えましょう。デミグラスソースが美味しかったので、もし次回訪れる機会があれば、今度はタンシチューを頂きたいなと思いました。
ごちそうさまでした。