無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

熱海「モンブラン」~町の洋菓子屋さんの理想形~

お昼を頂いた「スコット 旧館」さんからほど近い洋菓子屋さんの「モンブラン」さんも、昭和22年創業の老舗。こちらもまた、谷崎潤一郎が執筆後に必ず買いに来ていたというモカロールで知られたお店だそうです。旅館でのお茶の友用にと、いくつかテイクアウトしました。

モカロール
スポンジ生地にコーヒーの風味漂うバタークリームを巻き込んだロールケーキ。シフォンケーキやロールケーキといった柔らかい食感のケーキはあまり好まないのに、なぜか「モカロール」だけは、語感の響きからして魅力的で、手に取らずにはいられません。濃淡ある2色のモカ茶の色味も、抑えた甘さとコーヒーの芳香も、すべてがシック。押し出しは強くないけれど存在感はしっかり残る、気品ある味わいでした。
 
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マロンクリームと思いきや、その正体はキルシュワッサーさくらんぼのリキュール)とラム酒が染み込んだサバランに、生クリームの小高い山が載った一品。確かにMont Blanc=白い山に違いありません。サバランやババは、一般的にはあまりポピュラーではないのか、今時のパティスリーではなかなかお目にかかれないのですが、「モンブラン」さんのような、昔ながらの洋菓子店での遭遇率は高く、あれば必ず買い求めます。こちらのサバランは、ラム酒よりもキルシュワッサーの風味が強めで、同じく甘さ控えめ。楚々とした印象でした。

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◆ レモンパイ
タルト生地に穏やかな酸味のレモンクリーム、そしてこんもりと載ったメレンゲメレンゲの表面はこんがり焼けていて、口に入れるとさくふわの食感が楽しめます。メレンゲがたっぷりなので、レモンクリームの酸味はもう少し強めが好みですが、さっぱりした後口で食べやすいケーキでした。

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3つとも、奇をてらった物々しさのない、誠実で慎ましい美味しさが印象に残りました。一口目に驚きを呼ぶケーキではなく、食べ終えてしみじみ「美味しかった」と思えるケーキで、毎日食べても飽きが来ないであろう味わいは、ハレの日ケの日にかかわらず立ち寄りたくなる、町の洋菓子屋さんとしての絶対条件だと思います。ショーケースに並んだケーキも多種類あり、ショートケーキやミルフィーユ、アップルパイなどスタンダードなものも食べてみたかったけれど、旅行先ゆえ断念。残念。

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また、ケーキはお店のお隣の厨房で作っていらっしゃるようで、モカロールはその場で必要な分を切り分けて頂きました。ちっとも待たされた気分にはならなかったのですが、途中で「お時間かかってすみません」と声をかけて下さったり、購入後も私たち一人一人の顔を見ながら丁寧に見送って下さり、ケーキ同様に、「真心」という言葉が浮かぶような接客が印象的でした。

熱海に来ることがあれば、また絶対立ち寄りたい店です。ごちそうさまでした。

2015年10月某日の旅先: 静岡県熱海市「モンブラン」さん

モンブランケーキ / 来宮駅熱海駅
昼総合点★★★☆☆ 3.5