無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

イングロリアス・バスターズ / Inglourious Basterds~鑑賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意下さい。

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先日読んだ「はたかないで、たらふく食べたい」という本の中で、ナチス政権とホロコーストの思考回路に関連して、この映画が取り上げられていたことに興味が湧いて、鑑賞しました。何をいまさらというほどの有名な作品ですが、これまでなんとなく観る機会を逸していたのでした。

冒頭の1章で、「ユダヤ・ハンター」ことランス大佐がユダヤ人を匿う酪農家を誘導尋問するシーンから、早速引き込まれました。じりじりとした緊張感をはらんで進む長い会話劇は、3章でドイツ兵たちが集うバーでの銃撃戦直前のシーンでも光っていて(「私は誰でしょう」ゲームを長々と撮っているのが最高)、このセリフの応酬と、それに続く突き抜けた爽快感さえ感じる派手な銃撃戦が、タランティーノ監督らしさ満載でシビれます。

真骨頂はラストの映画館でのシーン。ユダヤ人女性ショシャナがナチスへの復讐のメッセージを放ち、フィルムに火が放たれた後、爆発までのドラマティックな十数分間は、単なるドンパチアクションに終わらない映像美で、明日に向かって撃て!」俺たちに明日はないを喚起させるような、忘れられないラストでした。復讐劇という形でナチスを描いた着眼点といい、取り沙汰された残虐シーンといい、ちょっとマカロニ・ウエスタン的でもあるように思います。




キャストはなんといっても、主役を食うクセモノ演技のランダ大佐=クリストフ・ヴァルツの、唯一無二の存在感。この人を初めて知ったのはおとなのけんかでしたが、この独特のクドさはやっぱり強烈な吸引力があるなぁと改めて感心。畳みかけるようなセリフ回し、独特の間とあの笑み!役柄のせいもありましょうが、申し訳ないけれどブラッド・ピットがどんどん大根に見えてしまいました…。

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2012-12-19





そしてヨーロッパ女優陣の魅力的なこと!「オーケストラ!」の透明感ある美しさが印象的だったメラニー・ロランクラシカルな装いが最高に似合うクール・ビューティーダイアン・クルーガー、さらにクレジットを見てびっくり、かつてフランス語講座のインテリ美人、ジュリー・ドレフュスが、モニカ・ベルッチ並に肉感的・俗物的通訳を、伸び伸びと演じているのが素敵でした。ハリウッド女優が演じる「強い女性」はマッチョ感が凄いのですが、彼女達の、もっとしなやかでしたたかな美しさを、タランティーノ監督は余すところなく掬いあげていて、眼福です。

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5章構成のなかなか尺の長い映画なのですが、鑑賞時間はちっとも気になりませんでした。映画を愛する監督が撮った映画は、やっぱり面白い!改めて、映画を観る楽しさに酔った作品でした。