無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

パレードへようこそ / Pride~鑑賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所がありますので、
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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1980年代の不況下のイギリスで、サッチャー首相の炭坑閉鎖案に抗議するストライキが続く中、ゲイの権利を勝ち取るためのパレードに参加したロンドンのゲイの若者たち数名によって、「LGSM = Lesbian and Gay Save Miners」という、炭坑夫を支援するレズビアンとゲイの会が発足しました。
集まった多額の募金は、紆余曲折の末ウェールズにある炭坑町へ寄付されることになりますが、まだゲイへの偏見が根強かった当時の田舎町では、彼らの善意を素直に受け入れることに抵抗がある人たちばかり。しかし、徐々に彼らはお互いの手と手を携えて、彼らの権利を勝ち取るための闘いに挑みます。

LGSM発足の提唱者、マークが炭鉱夫を支援したいと考えたのは、炭鉱夫たちの苦境を、当時弾圧・蔑視されていたゲイがおかれた境遇と同じもののように感じたからでした。彼は、ゲイの権利だけ主張しても意味がない、労働者や女性の待遇など、不合理なことは他にもたくさんある、と言います。
ただでさえ後ろ指を指されるような立場にいる彼とその仲間たちが、他人の痛みを自分のものと感じるばかりか、そのために行動を起こす、堂々たる姿に圧倒されました。自分たちへの偏見に悲観することなく、あまつさえ、罵倒された言葉をも力に変えてしまう彼らの、なんと雄々しく美しいことか。決してうつむかず、前を向いて生きる彼らの勇気に胸をつかれました。

保守的な考え方が残る炭坑町の男たちは、当初ゲイに対する嫌悪感を剥き出しにするのですが、最終的に両者が歩み寄り、打ち解けていった根底にあるものは、両者が持つ同じ切なる願いです。すなわち、ゲイという自身のアイデンティティ失くしては生きられない彼らと、良質な石炭が採れる炭坑と結びついた町に生きることに誇りを持つ炭坑夫たちが、彼ららしく生きていくために必要な権利です。
 
炭坑夫組合の代表としてロンドンを訪れた男性が、LGSMが企画した寄付パーティー会場で「我々がもらったのはお金ではなく、友情だ」と感謝を述べるスピーチが印象的です。「自分よりはるかに巨大な敵と闘っているときに、どこかで見知らぬ友が応援していると知るのは最高の気分だ」と。炭坑夫とその家族たち、LGSMのメンバーの気持ちがひとつになったシーンで、「As we go marching, marching...」と全員が高らかに歌う姿に涙が止まりませんでした。

北アイルランド問題を抱えるイギリスが舞台で、当時の社会的な問題を扱った作品ではありますが、鑑賞後は驚くほど清々しい気持ちになります。映画が送るメッセージはとてもシンプルで、「互いに支え合おう、誰でも、どこの出身でも、肩を組み、手を取り合おう」という、作品内のセリフに集約されてると思います。希望に満ちた感動的なラストでは、泣きながら笑ってしまうような、爽快な気分になること請け合いです。そして、何と言っても勇気づけられるのは、この素晴らしいストーリーが実話だということでしょう。

音楽も秀逸で、前述の炭坑夫たちの歌に加え、80年代のブリティッシュ・ロックのヒットも含めた曲の数々が個人的にはツボでした。サントラも聴かなくちゃ!