無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

アンタッチャブル(馳星周)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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2015年上半期直木賞候補作品。警視庁公安部外事三課に異動になった主人公が、妻の浮気と離婚を機に頭のネジがいかれてしまったとアンタッチャブル扱いされる上司と共に繰り広げる、荒唐無稽なスパイ追跡劇&コメディです。馳星周さんの著作品に馴染みがなく、初めて読みましたが、テンポ良い会話とスピーディーな展開で、506ページの厚さが負担になることなく読めました。

クセありな登場人物たち、北のスパイを探るべく出し抜きあう公安部の捜査や、随所にちりばめられたトリックなど、楽しく読める要素はたくさんあるのですが、しかし、最後のページに行きついた途端「…で、結局何だったんだ?」という脱力感を感じたのも事実です。
 
まず、主人公が最初から最後まで翻弄されっぱなしで、意思や信念が描かれていなさ過ぎですし、アンタッチャブル扱いされる上司のキャラも、ストーリー展開に応じて都合よく性格が変わるだけの人という印象で、キーとなる二人へのシンパシーを感じられなかったことが理由のひとつ。(特に、フィアンセとなる女性の登場と経緯は…必要だったでしょうか?)

たとえ、変人でもダメキャラであっても、どこかにブレない部分や愛すべき点がないと、登場人物はストーリーを動かすための道具で終わってしまうように思います。この作品でのアンタッチャブルな上司は、海堂尊さんバチスタ・シリーズにおける白鳥圭介を彷彿とさせますが、白鳥には医療に対する揺るぎない考えがあったからこそ、あの破天荒っぷりが愛すべきキャラとして定着したのだと思います。このテの「頭はキレるけど子供じみた風変りなヒト」は、他でも雨後の筍のごとく散見されますが、そろそろ食傷気味だなぁというのが正直な感想です。


 
もうひとつは、ストーリーがあまりにもご都合主義で、最初から最後まで法螺話と分かっている物語を読んでいるような、フラットな印象になってしまったことです。本来ならコメディとして収束される場面も、ハラハラドキドキを狙ったエンタテイメント的な部分も、どこかにリアリティを感じたり、感情移入できる箇所があってこそ、その落差による笑いや興奮が生まれるものだと思うのですが、それがないと、目の前で繰り広げられるドラマをただぼーっと眺めているだけというような気持ちになってしまうのでした。

相当ぶっ飛んだキャラばかりなので、シリーズ化されたりするのでしょうか?面白くなる要素は満載だと思うので、今後に期待したいと思いました。