無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

神保町「松翁」~蕎麦食べた!感が満たされます~

神田・神保町周辺に蕎麦の名店は数あれど、「松翁」さんがひときわ異彩を放っているのは、そば前を楽しんでから軽く一枚たぐるタイプの方と、純粋に蕎麦を楽しみたい下戸の方、両者の欲望を満たす酒肴の多さと、気前の良い蕎麦の量ではないでしょうか。
 
「松翁」さんは、気取らない店構えと、酒飲みでなくともあれこれつまみたくなる、どれを食べてもハズレのない美味しい酒肴がずらりの居酒屋然としたカジュアルな雰囲気なれど、目にも美しい盛り付けと上品な味わい、そして蕎麦の確かな旨さは、まぎれもなく蕎麦の名店です。その上、美味しい蕎麦なんだけどいかんせん量が…という、蕎麦名店あるあるとは無縁の、お酒が飲めない方には嬉しい蕎麦の量。お値段に見合った確かな満足が得られるお店だと思います。


◆ 鮎の焼き浸し
しなやかで美しい体躯の子持ち鮎。淡白な白身に、びっしり詰まった卵のコクが加わって、味がより立体的に感じられます。舐めつくしたいほど旨味溢れる出汁が出色。隅々まで行き渡った出汁が鮎の繊細な味わいを消すことなく、塩焼きとは全く違った旨さを堪能できました。
 
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◆ 百合根のバター炒め
バター香るホクホクの百合根は、しっかり塩が効いたオツな味。ビールが進むこと!
 
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◆ 鰯のつみれそば(かけ)
大きな丼になみなみと張られたつゆに沈む蕎麦と、表面を覆うほどの具材。この盛りの良さが「松翁」さんの真骨頂。ゲンコツ大ほどもあるつみれは、骨まで丁寧に細かくすられていてふわふわ。かけつゆをたっぷり含んだつみれを崩さぬようそっと口の中に入れれば、驚くほど鰯のクセがなく上品な味わいが、ほろほろっと口内でほどけてゆきました。そのままでも十分美味しいかけつゆには、つみれの脂や旨味が徐々に溶け出して、最後の一滴まで飲み干さなければバチが当たります!
 
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◆ 二色もり(並・ルッコラ切り)
二色もりも、こんなにたっぷりです。キリリとシャープな辛つゆが蕎麦の深い甘みを引き立て、蕎麦食いであることの幸せをしみじみ感じます。他県の方にどんなに濃い色を非難されようと、真っ黒上等!蕎麦にはやっぱりこの辛つゆでなくっちゃ。この日の変わりそばは、珍しいルッコラ切りでした。意外にも感じますが、ルッコラ胡麻に似た風味がほのかに感じられ、なるほどと感じる取り合わせの妙でした。
 
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◆ そばがき(小倉)
今回の訪問は、新そばの時期到来を待ってのものかとお思いでしょうが、さにあらず。「松翁」さんでのお楽しみの一つは、こちらの芸術品の如しそばがきです。実は当初二色天もりをお願いしていたのですが、「品数多めでお腹一杯になっちゃうから、そばがきはやめたら?」と店主の方のセーブがかかり、それならばと、そばがきを死守して、泣く泣く天ぷらを諦めました。
ことほど左様に、こちらのそばがきは絶品で、驚きのふんわり感が身上です。むっちりした力強い歯応えのそばがきも好きですが、「松翁」さんのそれは、絹のようになめらか、はんぺんに近い独特の柔らかさ、ミルキーな味わいに、比類ない個性を感じます。甘さ控えめの粒あんと頂く、極上のデザートです。
 
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以前、座った席からちょうど厨房でそばがきを作る様子が見えたのですが、渾身の勢いで空気を含ませながら火加減を調節してかき混ぜるので、それはそれは重労働。そばがきって簡単そうで難しいのですよね。ありがたや・・・。

お会計は一人3000円ちょっと。この味で、このお値段で、こんなにもお腹がくちくなるなんて、蕎麦のお店では珍しいことではないでしょうか。これからもずっと通いたい店のひとつです。

この日はほぼ予約席で埋まっていて、次々に訪れる予約なしのお客さんも、「7時まででしたら…」と言われていました。蕎麦屋で長っ尻は無用。私たちも早々にお暇しました。ごちそうさまでした。

 2015年10月某日の旅先: 神保町「松翁」さん

松翁そば(蕎麦) / 神保町駅御茶ノ水駅水道橋駅
夜総合点★★★★ 4.0