無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

愛を読むひと / The Reader~鑑賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意下さい。

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2008年米独合作映画。ご存知、ベルンハルト・シュリンクのベストセラー「朗読者」の映画化で、改めて説明するまでもない有名作品ですが、今になって観ました。

朗読者 (新潮文庫)
ベルンハルト シュリンク
新潮社
2003-05-28


ドイツに暮らす15歳の少年マイケルが、21歳年上の女性ハンナと恋に落ち、情事の合間に、彼女たっての希望で本を読み聞かせる日々を過ごすのですが、ある日ハンナが行方知らずに。数年後、法学生としてアウシュビッツ強制収容所を巡る公判を傍聴した彼は、ナチ戦犯として被告人席に座るハンナと再会。ハンナにとって圧倒的不利な裁判を聴講するうちに、彼はハンナの驚くべき秘密に気が付き…というあらすじです。

まず何よりも、ハンナ演じるケイト・ウィンスレットの巧さに瞠目しました。もともと高い演技力を持つ女優として認識していましたが、当時30代前半の彼女が、この難しい役どころを演じられるだけの十分な厚みを備えていたことに驚きます。

クールビューティな美貌とは対照的に、タイタニック当時から既に、エロティックというよりはどっしりとした肉感的な体躯で、包容力や逞しさ、人間的な温かみを感じさせる魅力をもつ彼女の、その稀有な存在感が、頑迷で気難しい一方で、少女のように無垢で、ハンディを懸命にひた隠しながら誇り高く生きる、ハンナ・シュミッツという女性にぴったりでした。ハンナという女性は決して饒舌ではないのですが、ケイト・ウィンスレットの表情や眼差しが、ハンナの不器用過ぎて愛しくさえ感じる魅力を、数少ないセリフ以上に雄弁に物語っていました。


 
物語には、強制収容所の女性看守という任務についていたハンナにその非を問いかける、ナチス時代の戦争責任という重いテーマが含まれていますが、主軸はやはり、マイケルとハンナの心の交信です。愛情と呼んでしまって良いかを迷うくらいのそれは、切なさを通り越して、痛々しく感じるほど純粋なものでした。
 
当時、職務に頑なに忠実であろうとした彼女の愚直さ、状況判断力に乏しいがゆえに圧倒的不利に立たされても尚、自分なりの正義を唱える純粋さ、そして罪を認め服役するよりも重要な、彼女が守ろうとした彼女なりの尊厳…聖人君子とは言い難いハンナに、人間としての輝きを感じるのは、全編を通して、マイケルの、ハンナへに対するあらゆる思いが満ち溢れているからなのかもしれません。

ハンナと共に彼女の尊厳を守ることを選んだマイケルは、その後面会することなく、朗読者としてハンナの人生に寄り添います。マイケルが送ったカセットテープの朗読によって、一歩を踏み出したハンナ。しかし、ラストで、釈放直前のハンナのもとを初めてマイケルが訪れる面会シーンでは、「来週迎えに来る」と告げる彼を見つめるケイト・ウィンスレットの表情が語る多くの感情に、息が詰まりました。 こんなにも、純粋で悲しい愛の交わし方があるのかと、ただただ胸が苦しくなりました。