無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

北海道美唄市・アルテピアッツァ美唄~心に残る、桃源郷のような場所~

旭山動物園を満喫した後、旭川から札幌に戻って一泊し、翌朝向かった先は美唄です。今回の旅の一番の目的が、この「アルテピアッツァ美唄」に行くことでした。ここは、彫刻家・安田侃(かん)さんが生まれ故郷である美唄に造った、野外彫刻公園です。

かつては北海道きっての炭鉱都市で栄えた美唄の、廃校になった小学校を展示空間に、そしてその周りの広大な敷地内にも、数々の彫刻がゆったりと配されています。真っ白な彫刻作品と自然の緑のコントラストが強烈な印象を放つ、アルテピアッツァ美唄の写真を偶然雑誌で見かけて以来、ぜひ行ってみたいと所望していた場所でした。
 
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札幌駅から、函館本線のスーパー宗谷号でおよそ30分、美唄駅からはバスに乗って20分。バスの車窓から眺める風景には、赤や黄色に染まった木々が映り、10月なのに早くも秋の気配が漂っていて、北海道にいることを実感します。屋外の彫刻作品を鑑賞するので、かろうじて青空が覗く空模様を見ながら、雨が降りませんようにと祈るような気持ちになりました。
 
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祈りが通じたのか、アルテピアッツァ美唄に到着する頃には、晴れ間が見えてきました。こちらは、敷地内の小高い丘の上に作られた「天翔」
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青々とした芝生に、秋色に色づく山々、そして小学校舎の赤い屋根とのコントラストが素晴らしく美しい「水の広場」「天モク」
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「天聖」から眺める「天モク」
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「真無」
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「水の広場」と校舎。
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敷地の奥の森の中にも彫刻が点在していて、歩を進めていると、思いがけず作品が姿を現わします。さながら宝探しのようです。

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山の反対側は美唄川の支流が流れていて、川にせり出した展望テラスの上にも作品が。身体を受け止めるほど大きな作品の上にごろりと寝ころび、高く青い空を見上げました。そのままじっとしていると、木の葉の擦れ合う音、鳥のさえずり、吹き過ぎる風の音など、自然のざわめきが耳に心地よく、ひどく穏やかな気持ちになります。柔らかな日射しに目をつぶると、そのままどこかへ誘われてしまいそうでした。
 
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このアルテピアッツァ美唄の素晴らしいところは、無機質な物質で出来た野外彫刻群が、自然との対比によって、あるものは柔らかくしなやかに、あるものは静謐で気高く、様々な表情を私たちに見せてくれることです。

私が訪れた初秋は、芝生の緑や黄色や赤の暖色に染まりつつある木々の中に、その姿を浮かび上がらせていましたが、置かれている場所はずっと同じなのに、時間の経過と共に変化する光の加減によって、同じ作品がまるで違うように見えるのです。改めて、野外彫刻の美しさと面白さを実感しました。

一日でもこんなに変化が見て取れるのですから、もし一年を通じて毎日鑑賞することが出来たら、毎回違った表情を見ることが出来るに違いありません。実際に、HPで見る四季折々の作品群は、春は桜に包まれ、夏は日差しの下、そして冬は静かに降り積もった雪の中で、と自然の変化と共に、豊かな表情を見せています。
 
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一方で、彫刻が置かれていることによって、周りの自然もまた、その存在感をくっきりと際立たせます。作品を眺めるときに視界に入る風景は、色々な角度から切り取られ、その色・風に揺れる様・音・香り、自然の全ての息遣いが輪郭をもって迫ってきます。自然と彫刻は、調和しつつ、互いを引き立て合ってもいるのです。
 
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そんな解釈はさておき、この広場は公園でも憩いの場でもあり、人々の生活に近しく親しみやすい場所として存在しいてることこそが、一番の大切なことなのかもしれません。私たちのような観光客もいましたが、犬連れで散歩するひと、小さな子供を遊ばせているひとなど、市民の方々が気軽に、そして愛しそうに作品に触れている姿が印象的でした。

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敷地内には、安田さんのギャラリー始め、イベントが行われるアートスペース、ワークショップが開かれる工房「ストゥディオ」などがあり、文化交流の場としても広く親しまれているようです。また、同敷地内にあるカフェ、「アルテ」さんでは、外に向けた大きな窓から、アルピアッツァ美唄の景色を眺めながるように席が設けられており、お茶を飲んでゆっくりと寛ぎながら、その風景を楽しむことも出来ます。

時間が許す限り滞在しましたが、去る時は後ろ髪を引かれる思いでした。叶うならずっとここで過ごしたい、何度でも訪れたい、と思える場所に出会えるのは、譬え難い幸せです。北海道訪問はまだ10回にも満たないほどですが、大好きな「大沼公園」「モエレ沼公園」と並び、心に残る風景の多くには北海道で出会うことが多く、心から素晴らしい土地だと思っています。