無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

エベレスト / Everest ~鑑賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所がありますので、
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

--------------------------------------------------------------------------------

映画「エベレスト」公式HP

1996年にエベレストで起きた、エベレスト登山史上最悪の大量遭難事故の実話映画化です。3Dメインの公開ですが、体質的に3Dが合わないので2D版を観ました。

家族や友人など、周囲に登山愛好家が多いわりに、登山とは全く縁遠い人生です。よって、山を登る醍醐味や、登頂を目指す熱意が、真から理解出来ていない私にとって、この映画は疑問符の連続でした。
デス・ゾーンと呼ばれる標高8,848mの領域が、命の危険と隣り合わせなのを知っていながら、敢えて挑むのはなぜ?技術や体力に不安があるのに、登頂出来ると思える自信はどこから?ひたすら時間・天候・酸素ボンベの残量とせめぎ合いあいながら登頂するも、そこからの眺めを愉しむ余裕さえなく引き返すわけですが、その一瞬の登頂で得られる対価は、名声?記録?それとも・・・?

この事故が起きたのは、かつては一部の冒険家や国を挙げてのプロジェクトによって登頂されていたエベレストを、アマチュア登山家にも手が届くようにとガイドをつけたツアーが主流となり、人気が急騰していた頃のことだそうです。エベレスト登頂を目指した、商業登山隊のメンバー計8名が死亡した経緯を、仔細に追ったドキュメンタリーのような作品ですが、ベースキャンプの恐ろしいほどの混みようや、登山中ですら渋滞のため停滞を余儀なくされる、尋常ではない様子に、当時のブームの凄さが見て取れます。

そして、事故の実態は、あまりにも無謀な行為の積み重ねでした。入念な準備をしていたはずのルート工作の不備に始まり、不測の事態に対応すべき探検家隊長やガイドたちは、体力や技術が劣るアマチュア登山家たちのフォローに翻弄され、ブリザードによって下山ルートを見失った上に、救援隊の出動もままなりません。そんな最悪の状況下で、タイムリミットを超えての登頂強行や、コミュニケーションの不行き届きなど、人災と思える場面すらありました。

無理な救助に向かった先で命を落とした人、登頂を強行したが故に死に至った人…結果を知っているからこそ言えることではありますが、あまりにも綻びが多く、不必要な死が多い事故だったと思います。また、無事に下山出来た人たちも、仲間を見捨てざるを得なかったことで自責の念にかられ、誰一人登頂の喜びを噛み締めることのないベースキャンプの様子が映し出されるラストは、あまりにも救いがありませんでした。しかし、これが現実なのでしょう。この作品は、それだけのリアリティをもった、迫力ある映像でした。

登山隊メンバーの一人、凍傷にかかりながらも奇跡的に生還する、ジョシュ・ブローリン演じるベックが、登山は幸せではなく苦行だと言いながらも、山に登ることを止められないと呟くシーンがありますが、それほどまでに人間を虜にする「山」は、私にとっては大いなる脅威としか思えませんでした。近年日本でも、登山ブームが続く中、トムラウシ山遭難事故が記憶に新しいところです。自然の力を、いつ何時も見くびってはいけないのだと、つくづく思い知らされます。