無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

片想いさん~恋と本とごはんのABC(坂崎千春)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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酒井順子さんのエッセイ「本が多すぎる」で紹介されていた一冊。Suicaのペンギンや、クウネルくん、チーバくんダイハツのカクカク・シカジカなどのキャラクターを生み出したイラストレーターの坂崎千春さんのエッセイです。

自分に自信がないくせにプライドだけは高く、自意識過剰。好きな人の前に出ると緊張でカチコチになってしまう…人を好きになっても、いつも片想いで終わってしまう「片想いさん」の、そんなあれこれが痛いほどわかるのは、かつて自分もそんな経験があるから。きっと多くの人が、「片想いさん」に共感してしまうのではないかと思います。刊行されたのは10年も前ですが、内容が未だ色褪せず、瑞々しく感じてしまうのも、「片想いさん」はいつの時代にもひっそりと存在するからに他なりません。

この本はエッセイという体を取っているけれど、どこまでが坂崎さんの実体験なんだろう?と思ってしまいます。もし全て事実をありのまま語っているのだとしたら…そんなに何でも正直に綴ってしまっていいの?と心配になるほど、まっすぐで健気な気持ちが吐露されているのです。恋について語っているのにも関わらず、その読後感は決して甘やかではなく、切なくさみしい。誰かを好きになるって、こんなにも自分(特に自分のイヤな部分)と対峙しなければならないんだよなぁ…と、片想いの気持ちを抱えていたあの頃とはすっかり遠ざかってしまった自分に、なんだか大きな忘れものをしてしまったような欠落感を覚えました。

サブタイトルの通り、本とごはんのことについても綴られた本書は、その内容も魅力的。バウルーは、我が家でも週末の定番朝ごはんだし、「モモ」「たんぽぽのお酒」「るきさん」「長めのいい部屋」博士の愛した数式「流しのしたの骨」…、お気に入りの本がかぶっているのを発見するのは、学校のクラス替えで「この子と友達になれそうだな」と密かに思いを寄せる気持ちに、似ているような気がしました。