無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

黄金のアデーレ 名画の帰還 / Woman In Gold~鑑賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際はどうぞご留意下さい。

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公式サイト

実話をもとにした映画です。舞台は1998年のLAでスタート。法律改正に伴い、第二次世界大戦時にナチに略奪されたユダヤ人の財産が返還される可能性があるとして、主人公のマリア・アルトマンは、友人の息子である駆け出しの弁護士ランディ・シェーンベルクに、美術品返還協力を依頼します。ユダヤ人富豪一族の娘であったマリアは、ナチに強奪された末にウィーン国立美術館に展示された、クリムトの作品である伯母アデーレの肖像画を取り戻したいというのです。

功名心と、莫大な値がつく名画の価値に魅力を感じ、依頼を受けたランディ。しかし、オーストリア政府は「オーストリアモナ・リザ」とも呼ばれる名画を、簡単に手放そうとはしません。祖国と思っていたウィーンで迫害を受け、家族を奪われ、命からがらアメリカに亡命した過去を持つマリアは、忌まわしい思い出と共に、絵画への未練を一度は断ち切ります。しかし、自身もまた作曲家シェーンベルクの孫であり、ユダヤ人のルーツを持つランディは、曾祖父母が収容所で殺された歴史を目の当たりにし、決意新たに絵画返還に尽力します。やがて、個人がオーストリア政府を相手取るという、前代未聞の裁判が始まるのですが…。
 
多くの困難が立ちはだかる裁判への道のりと並行して、ユダヤ人迫害がまかり通っていた狂信的な時代に、マリアが体験した壮絶な過去が描かれるのですが、彼女が奪われたのは、財産だけではなく、人としての誇り、かけがえのない家族、愛していた祖国での思い出であることが、痛いほどよくわかります。そう、戦争の非道さは、目に見えるもの以上の、大切なものが、理不尽に奪われてしまうこと。マリアが本当に取り戻したかったのは、絵画そのものではなく、戦争で踏みにじられた、彼女と一族の誇りと歴史だったのです。

一方で、マリア達に協力する、フベルトゥスの存在も印象的でした。オーストリア人であることに誇りに感じたい、と自国と祖先が犯した過ちを認め、償おうとする彼の姿は、勝敗国に関わらず、戦争に携わった国の、誰もに通ずるものだと思います。映画「愛を読むひと」の原作「朗読者」を読んだ時同様に、戦争の負の遺産を抱えた国が、後にそれをどう継承していくべきかを、深く考えさせられます。
ストーリーも素晴らしく、見応えのある内容ですが、キャストがまた秀逸。私の好きな英国ベテラン女優ベスト3に入るヘレン・ミレン(+ジュディ・デンチ、ジョーン・プロウライトです)が主役だから観た映画でしたが、凛々しく気高いヘレン・ミレンの、堂々たる貫録と美しさは、この映画になくてはなりませんでした。また、ランディを演じるライアン・レイノルズも、その頼りなさ加減が絶妙なだけに、ラストの感動はひとしおです。

辛い過去を背負いながらも、新天地アメリカで生き抜いてきたからこそ持ちえた、ユーモアや強さがマリアにはあります。それは、この映画の空気感も同様で、シリアスで深いテーマを扱っていながら、観終わった後には、じんわりとした温かさ、スカッとした爽快感を感じる映画でした。