無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

鹿児島「仙巌園」~権力者の威力と偉業を思う~

今回の鹿児島旅行での唯一の観光は、名勝仙巌園桜島に上陸して周遊するよりも、借景を上手に取りこんだ庭園から、築山に見立てられた桜島をとっくりと見たいと思いました。人が少ないうちにゆっくりと散策したかったので、朝8時半の開園と同時に入場。

入ってすぐの広場には、大砲を鋳造するために鉄を溶かして鋳型に流し込む西洋式の高炉「反射炉」の基礎部分の跡とその反射炉で造られたとされる150ポンド砲のレプリカがあります。150ポンド砲とは、その名の通り150£=約70kgの砲弾を、3km先まで飛ばす威力があるのだそうです。

この反射炉を含む一帯は、島津斉彬が推進していた集成館事業(列強各国への対抗策として、産業や軍備の近代化が急務と考えた斉彬によって提唱された、富国強兵と殖産興業プロジェクト。具体的には製鉄や、ガラス・陶器・薬品・織物などの製造業や、武器製造、蒸気機関・電信・写真などの技術開発が含まれます)の工場や、そこで働く人々の宿舎があった場所で、いわば島津藩の集成館事業の中枢であり、日本の産業革命の先駆け的存在でもあったのですね。

この集成館跡地一帯と、隣接する機械工場(現在は「尚古集成館」命名された資料館になっています)、そして紡績所で働くイギリス人技師の宿舎であった「旧鹿児島紡績所技師館(異人館」が、その歴史・文化的価値を認められ、昨年7月に「旧集成館」として、世界遺産明治日本の産業革命遺産)登録されています。
 
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これら集成館事業の遺産もかなり見応えがありましたが、私のお目当てはお隣の仙巌園の庭園でした。この地は、島津家19代光久が建てた別邸だったのですが、明治時代に鹿児島城が消失した後は、島津家当主の本邸として使われていました。つまり、集成館事業の施設は、お殿様の住まいの隣に造られたというわけです。
 
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名勝たる所以は、その絶景。庭を作りこむのではなく、桜島そのものを築山に、錦江湾を池に見立て、目前に広がる自然の光景をそのまま自分の庭の一部として取りこんだスケールの大きい庭園です。遮るものなく、桜島の裾野までくっきりと見える眺めは雄大で、この地に君臨していた島津家当主たちが、どのような思いでこの景色を眺めていたのか、想像が膨らみます。庭園好きにとっても、かなりテンションが高まる眺望でした。
 
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琉球王国から贈呈された望嶽楼と呼ばれるあずま屋は、正に、嶽(桜島)を眺める(望)ためのもの。床一面に模様入りのタイルが貼られています。ここで、勝海舟や、ロシアのニコライ二世との面談が行われたそうです。
 
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驚愕したのは、御殿の裏山にある石壁の文字。見上げるほどの高所(赤矢印部分)に書かれた「千尋」の巨大文字は11mにも及びます。もちろん人力によって書かれたもので、のべ3900人の工夫を使って、3ヶ月ほどかけて作られたものだそうです。

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こうして岩に文字を刻んで着色するのは、中国文化の影響なんだそうです。今尚くっきり文字が見えるのは、貝殻を細かく砕いた粉を塗り固めた胡粉という塗料を使っているから。
 
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裏山には江南竹林と呼ばれる見事な竹林も。これは中国から取り寄せて植林した「孟宗竹」で、これが日本の食用タケノコのルーツとなっているのだそうです。
 
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園内には薩摩切子のギャラリーショップも。その繊細な美しさには惚れ惚れしますが、やはりお高い…。庭園と桜島が映り込んだショーケースと共に、鑑賞だけでガマン。
 
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この仙巌園だけでも、島津家歴代当主の先見の明、権力者としての威力と繁栄の軌跡を、まざまざと見せつけられた思いがしました。鹿児島の絶景を独り占めする位置に別宅を持つのも象徴的ですが、その隣にいち早く技術革新をリードするような工場群を建ててしまうのも、凄いことです。

また、日本初とされる横浜のガス灯設置より15年も前に、島津斉彬はガス灯をともす実験を成功させていたそうですが、邸宅敷地内にはその名残である「鶴灯篭」と呼ばれる大きな灯篭や、水力発電施設など残っていて、昔ながらの書院造りの邸宅に似つかわしくないほど、生活の中に近代技術が積極的に取り込まれていたことにも驚きました。

薩摩藩と言えば、大河ドラマ篤姫が有名なようで、園内各地にも、ドラマのロケ地とされた箇所の説明が。ここを訪れた今、改めて島津家の歴史を辿ってみたくなり、一度観てみようと思いました。
 
早朝の園内では庭師の方が花を丹精されていて、こんなふうに雪囲いを施された牡丹も。

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「花も団子も」がモットーの私。このあたり磯地区の名物と言われる「ぢゃんぼ餅」も、もちろん頂きました。武士が大小2本の刀を腰に差す「両棒(ぢゃんぼ)」に因んだ餅菓子だそうです。お店によってタレの味はバリエーションがあるようですが、ベーシックなのはみたらし風の砂糖醤油。仙巌園内のお店では、味噌味との2種類セットが売られていました。香ばしく焼き目がついた平たいお餅は、小腹なだめにもぴったり。ごちそうさまでした。
 
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2016年1月の旅先: 鹿児島「仙巌園」