無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

そして、ひと粒のひかり / Maria Full of Grace ~鑑賞後感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの映画をご覧になっていない方は、以下記述に目を通される際はどうぞご留意下さい。

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2004年の米・コロンビア合作映画です。コロンビアの田舎町に暮らす17歳の少女マリアは、薔薇農園での単調な仕事をしながら家計を支えて暮らしています。どこかへ行きたい、何かをしたいと変化を望みながらも、自分が何を求めているかもわからず苛立つ日々。そんなある日、些細なトラブルが元で仕事を辞めてしまうマリア。時を同じくしてボーイフレンドとの子供を妊娠したことにも気づくのですが、愛してもいない彼と結婚をすることも考えられません。

マリアは次の仕事を求めて街に出ようとしたところで、とあるパーティーで知りあった男性から仕事を紹介されます。その仕事とは、いわゆる運び屋。しかも麻薬を仕込んだゴム袋を飲み込んで胃に収め、NYまで運ぶというのです。万が一ゴム袋が体内で破裂してしまえば、即死です。何よりも、子どもを宿している体内にそんなものを入れて運ぶことに当初は躊躇するマリアですが、姉とのつまらない諍いの末、勢い余って引き受けることを決心。偶然知り合った同業者のルーシーという女性から手ほどきを受けたマリアは、生まれて初めて飛行機に乗り、NYへと旅立つのですが…。

以前、メディアでこのような運び屋の記事を読んだことがありますが、麻薬とは何の接点もなかった17歳の少女が、簡単にこのような仕事を紹介されてしまう国の背景にまず驚愕します。袋を破かぬように胃に収めるために、ゴム袋と同サイズの巨峰を飲み込む練習をしたり、62個もの麻薬の袋を胃の中に入れたまま搭乗し、飛行機内で気分が悪くなる様子や、到着後は飲み込んだものを全て排出するまでホテルに監禁されるなどのディティールがリアルで、この危険極まりない行為の苛酷さに圧倒されます。

しかし、もっと圧倒されるべくは、危険を承知で運び屋を引き受ける彼女たちの驚くほどシンプルな理由です。ルーシーは「NYに住む姉に会いたいから」、そしてマリアの親友ブランカは「家族に家だって買ってあげられるから」。彼女たちは、ここまで命懸けの行為と引き換えでなければ、そんな単純な願いさえ叶わない国に生きているるのです。家族と別れ、孤独に耐えて、ようやくNYに移住して子供を産んだ、ルーシーの姉のセリフが非常に印象的でした。曰く「子供を産むならアメリカでと思っていた。コロンビアで子供を育てるなんてありえない」と。

62個の麻薬入りゴム袋を飲み込んだマリアは、入国管理局でのピンチを乗り越え、その後幾度もトラブルに巻き込まれながらも、全てを売人に手渡し、無事に仕事を終えるのですが、最後に彼女の体内に残る、もうひと粒のひかりと向き合うべき時がやってきます。最終的にマリアが下した決断には、自分の置かれた状況を変えてゆこうとする者の逞しさを感じると同時に、次の世代となる新しい光の存在が、未来へと繋がる道を選び取る原動力になるのだという、希望の光を見出すことが出来ました。