無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

作家と一日(吉田修一)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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私がANAの機関誌『翼の王国』の中で「おべんとうの時間」と同じ熱心さで楽しく読んでいるのが、吉田修一さんのエッセイです。とはいえ、毎月定期的に空路を利用しているわけではないので、当然読み逃している回もあり、こうして一冊の本にまとまり、通しで読めるのは有難いことです。

飛行機の機関誌という性質上、読み終えたらすぐに旅に出掛けたくなるエピソードが満載なのですが、あとがきで吉田さんご自身が書いていらっしゃるように「これ、読んだことあるなあ。」と、機関誌の連載を読んだ時の旅の思い出を思い返すのもまた、楽しいひとときです。旅先にも必ず本を持って出掛ける私ですが、旅先で読んだ文章というのは、普段と空気や高揚感が違うせいなのか、その土地の風景や自分の心持ちと密接にリンクして、自分も驚くほど鮮明に記憶がよみがえります。

本書では、吉田さんが猫を飼い始めたことを明かす「風邪をひいた猿」と、その後折に触れて登場する飼い猫の金ちゃん&銀ちゃんのエピソードが、微笑ましくて印象的でした。ご当人が「まさか猫のエッセイなんかを書いてしまうとは!」と「自分の変貌ぶりに驚」いていらっしゃるように、ちょっと意外な組み合わせ(失礼!)で…。しかし、角田光代さん「今日も一日君を見ていた」もそうですが、文才のある方が綴る生き物への眼差しはとびきり素敵で、いいもの読ませて頂いた~と満ち足りた気分になります。