無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

孫と私の小さな歴史(佐藤愛子)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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御年93歳の佐藤愛子さんの最新エッセイは、おなじみ響子さんの娘であり、愛子さんの初孫である桃子さんとのストーリー性のある2ショット写真と共に綴られています。この写真は、毎年愛子さんがごく親しい友人に送っていた年賀状用で、トトロの可愛らしい着ぐるみから始まり、インディアンやドラキュラ、コギャル、赤ん坊、さらし首、泥棒…と年々過激になるテーマに沿って扮するコスプレは、なんと20年近くも続けられます。本書の最後を飾る2011年の年賀状写真には、度肝を抜かれつつ「あっぱれ佐藤愛子さん!」と賞賛せずにはいられませんでした。

以前、内舘牧子さんのエッセイの感想として、内舘さんと佐藤愛子さんが「女傑」のイメージであると書いた通り、卒寿を過ぎてもその勇ましい生き方は変わらぬ佐藤愛子さんですが、昔と比べるとエッセイに出てくる「!」のマークは明らかに少なく、怒り心頭に達する場面は随分少なくなりました。この年賀状の撮影が行われていた20年の間にも、白内障の手術をされたり、二週間近くも入院されたりと、体調を崩される事態もあったようです。「晩鐘」を執筆された際の心情に通ずるものがあるかもしれませんが、きっと、ご自身の来し方行く末を思う日もあったのではないでしょうか。
 
晩鐘
佐藤 愛子
2014-12-06


しかし、体の心配をする愛子さんを笑い飛ばして気を紛らわせ、暴走する母をおおらかに受け止める響子さんや、今時の若者らしく感情がフラットで、年賀状撮影も「ひたすらくだらない、面倒くさいこと」だと感じつつ、「祖母がやるといえば、とにかく腹をくくって付き合うしかない」と語る桃子さんに囲まれた愛子さんの暮らしは、大層楽しく賑やかです。このお二人がいるからこそ、愛子さんはいつまでも勇猛果敢、自由闊達なままでいられるのでしょう。その関係性がとても羨ましく感じられる、素敵な家族の物語でした。