無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

日本橋「お多幸本店」~好きじゃ、なかったのに~

すり身や練りもの嫌いな上に、幼少期は柔らかい煮物も苦手だったので、母の作る料理の中で唯一憂鬱に感じていたのが、おでんが載る食卓でした。母の味でさえ苦手なのに、コンビニで買ったり外で食べたりなぞもっての外で、冬の風物詩と言われて親しまれているおでんの魅力がさっぱり理解できないまま、大人になりました。

そんなにも敬遠していたおでんですが、同行者の強い強い願望に負けて、この日は日本橋「お多幸 本店」さんの暖簾をくぐることになりました。「お多幸」さんの名物である「とうめし」はマスト、と言い張ったのは同行者ですが、それならば、添えられるおでんの具材がおまかせになってしまう昼定食のとうめしではなく、自分でチョイスしたおでんだねととうめしを食べに夜に訪問しよう、と提案したのは私です。

カウンターの前に座ると、おでんだね達がたぷたぷと茶褐色のおでんつゆに浸かっている様子が見えます。湯気が立ったおでん鍋はぬくぬくと温かそうで、いい湯加減~♪という声が聞こえてくるようです。年季が入ったつゆは、煮詰まりや濁りといった嫌な匂いとは無縁で、店内には、ノスタルジーを誘う、出汁と醤油と砂糖の芳醇な香りで満たされています。壁にかかった品書きの札を見るだけで、なんだかワクワクしてきました。
 
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◆ こんにゃく、きゃべつまき、だいこん、たまご
生粋の東京者である私でも、ぎょっとするほどの色濃い茶色に染まったおでんだねの数々。しかし、つゆは中までしっかりと染みているのですが、その甘辛さが全てを支配しているのではなく、キャベツや大根の甘み、こんにゃくの歯応えなどがきちんと感じられる煮加減でした。お酒を呼ぶしっかり味なのは間違いありませんが、決して塩辛くてクドい味ではありません。特に、きゃべつまきは、柔らかなキャベツの葉の甘みと、つゆの甘辛さが違和感なく調和していて、印象的でした。
 
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◆ 牛すじ
とろけるほど柔らかく煮込まれた牛すじと、つゆのバランスがベストマッチで、個人的にはこれが一番でした。
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◆ いいだこ
ぷりぷりで柔らかないいだこも、記憶に残る味わい。仕上げの山椒が良いアクセントでした。
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◆ たたみいわしチーズ & 鮪ぬた
おつまみも少々。海苔の佃煮ソースが添えられた、たたみいわしチーズが美味しかった!
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◆ たけのこ、こぶまき
こぶまきの芯は牛蒡でした。つゆをたっぷり吸った昆布の内側がとろりとなっていて、もう…。
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実家のおでんにも入っていたちくわぶは、練りものが嫌いだった私が、美味しく食べていた数少ないおでんだね。小麦粉を練った棒といえばそれまでですが、私は、これこそつゆの旨さを味わうのにもってこいの具材ではないかと思う者です。
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残念ながら写真はブレてしまいましたが、口にするのが高校生以来だったので、非常に感慨深い思いで頂きました。関西出身の友人にはちくわぶという単語自体が通じなかったことで、関東特有のおでんだねであることを知ったのは、大人になって随分経ってからのことでした。
 
◆ 牛タン
牛タンは、去年誕生したニューフェイスなのだとか。どかんと大きい3切れのタンが、白髪ねぎと糸唐辛子と共に供されます。歳月を経て育ってきた豊かな味わいのおつゆで煮込んだ牛たん煮込み、美味しくないわけがありません!
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◆ 半とうめし
同行者垂涎のとうめし。硬めに炊かれた茶飯に、ふるふると頼りなげに均衡を保つ煮豆腐が載った姿が、俄然食欲をそそる一品です。だしが染みた滑らかなきぬごしが、ちゅるんと喉を通っていくのが快感。ケレン味のない優しい味わいですが、醤油と砂糖味で育ってきた日本人には忘れ難くクセになる味でもあります。私はかなり満腹だったので、半とうめしを頂きましたが、〆にはこのくらいの量がちょうど良かったです。
 
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食べ終えてみれば、あれ?私かなりノリノリでおでんを頂いてしまっておりました。年を取って味覚が変わってきたのかもしれませんし、ご覧のように、苦手な練りものを避けたのも勝因(?)ですが、何よりも、一朝一夕では存在し得ないつゆの旨さと、手間暇かけて煮込まれた丁寧な技による「プロの味」に平伏したというのが、本当のところです。好きじゃなかったはずのおでんを、ここまで美味しいと感じられたことに、自分でもびっくりしています。
(あっ、もうひとつ。大好きな男梅のサワーがあったのも嬉しいポイントでした・笑)

なんであれ、自分の人生において苦手なものが減ってゆくのは、やっぱり嬉しいことです。品切れだったつみれ(この店では「つみいれ」と呼ばれるようです)や、4月からの提供だというトマトなど、今回食べることが出来なかったおでんだねを味わいに、きっとまた再訪すると確信しています。

ごちそうさまでした。

2016年2月某日の旅先: 日本橋「お多幸本店」さん 

日本橋 お多幸本店おでん / 日本橋駅東京駅三越前駅
夜総合点★★★☆☆ 3.3