東京23話(山内マリコ)~読後所感~
※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。
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生まれ育った東京という都市を、日本という国を、ちゃんと知っておきたいと思ったのは、アメリカに住んでいた時でした。それまでは、自分の居場所には全く興味を持たないまま、海外への憧れだけを募らせていたので、高校卒業と同時に日本を出たはいいけれど、自分の生まれ育った街のことも、自国のことも、恐ろしいほど無知であることを思い知らされました。帰国後、東京の建物や庭園、お店をあちこちふらふらと巡るようになってから、初めて自分が生まれ育った東京という街を、「我が街」として身近に感じるようになったのです。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。
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生まれ育った東京という都市を、日本という国を、ちゃんと知っておきたいと思ったのは、アメリカに住んでいた時でした。それまでは、自分の居場所には全く興味を持たないまま、海外への憧れだけを募らせていたので、高校卒業と同時に日本を出たはいいけれど、自分の生まれ育った街のことも、自国のことも、恐ろしいほど無知であることを思い知らされました。帰国後、東京の建物や庭園、お店をあちこちふらふらと巡るようになってから、初めて自分が生まれ育った東京という街を、「我が街」として身近に感じるようになったのです。
「東京23話」は、東京23区の歴史や逸話、建物や人などの代表的なシンボル、そして街の移り変わりを、各々が一人称で自分語りするというスタイルです。「ここは退屈迎えに来て」や「アズミハルコは行方不明」など、地方都市に住む女性の鬱屈した感情を描いた作品が印象深い山内マリコさんだけに、どういう視点で東京を語ってゆくのか、興味を持って読み始めました。
文京区ならゆかりの夏目漱石「吾輩は猫である」の口調、官公庁が集まる千代田区は自他共に認める「お堅い奴」、インド人率の高い西葛西がある江戸川区は片言の日本語で…、と擬人化されたそれぞれのキャラクターや語り口が、区の特徴を上手く捉えていて、大変面白く読みました。現住所を含め、これまで住んでいたり、勤務先があったなどで慣れ親しんだ区のページに関してはもちろん、あまり縁がなかった区には逆に大いに興味をそそられます。お店紹介のガイドブック等とはまた違った視点で楽しめるので、東京探訪の参考にもなりそうです。
それにしても、東京という街の移り変わりの激しさに、改めて感じ入りました。日本の歴史からみれば、東京が首都になってからの歴史なぞ浅いのに、こうも急激に変貌を遂げたのかと、ただただ驚くばかりです。しかし、その変化は決して能動的な理由だけではなく、関東大震災や敗戦の影響といったやむにやまれぬ背景と、多くの人の犠牲の上に成り立っていることも、この街に暮らす者として、知っておくべき史実だと感じました。最終章の特別収録は、東京都が語る「東京の誕生」ですが、決して停滞することのない、絶え間ない「誕生」という言葉がとても印象的でした。
ところで、筆者の山内マリコさんご自身は、1980年生まれ・富山県のご出身で、かつての東京を身を以って知っていた方では当然ないわけですが、山内さんのヴィヴィットな筆致が、歴史語りにとてもマッチしていて、各々の区のかつての姿から現在までを、一緒にタイムトリップしているかのような一体感が感じられました。