無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

陽気なギャングは三つ数えろ(伊坂幸太郎)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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陽気なギャングが地球を回す」「陽気なギャングの日常と襲撃」に続くシリーズ3作目。冷静沈着な人間ウソ発見器の成瀬、動物を愛する天才スリの久遠、果てしないお喋り男・響野、そして精巧な体内時計を有する雪子の4人は、今回も健在。しかし、図らずも久遠が、暴漢に襲われた週刊誌記者・火尻を助けてしまったことから、トラブルに巻き込まれます。なんと、彼らが銀行強盗であることを嗅ぎつけた火尻に恐喝されてしまうのです。降りかかる火の粉を払おうと成瀬は策を講じますが、火の無いところに煙を立てることを得意とする火尻は意外にも強敵で…。
 
あとがきで伊坂さんご自身が説明されているように、9年ぶりのシリーズ最新作なのだそうです。そんなに昔なのかぁ…。本音を言えば、3作とも、事件のあらましやトリックそのものについては、こじつけ感があるというか、しっくり来ないというか、取り立てて面白くはないのです。今回の「陽気なギャングは三つ数えろも、悪役である火尻との駆け引きも、彼とギャング達が巻き込まれた事件の真相も、無理矢理感が否めません。

しかしながら、このシリーズの面白さは、個性的な4人のひたすらダラけた会話の応酬(もっと本音を言うと、雪子は大して面白いキャラではありませんが)。伊坂幸太郎さんの他作品は、ピリッとした毒気があったり、見事な伏線回収があったりと、考え抜かれた作者のたくらみを感じるものが多いのですが、ことこのシリーズに至っては、ご自身が「お伽噺のようなもの」と評されているように、この現実味のないユルさに特徴があると思っています。特に、久遠と響野が最高!映画「レザボア・ドックス」の冒頭で、男たちがダラダラとしょーもない会話を繰り広げるシーンを連想させる、無益でとめどもない会話の妙味こそが「陽気なギャング」シリーズの魅力です。


 
伊坂幸太郎さんの他作品に関する読後所感
「サブマリン」
「火星に住むつもりかい?」
「ジャイロスコープ」