無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

温泉妖精(黒名ひろみ)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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温泉妖精
黒名 ひろみ
2016-02-05

第39回(2015年)すばる文学賞受賞作品。かつては、両親に連れられて、美しい姉と共に東京のタレント養成所に車で通う日々を送っていた主人公絵里。癌を患った母の願いを託され、養成所通いを拒むことは出来なかったものの、絵里は自分が容姿に恵まれていないことを早くから自覚しており、容姿コンプレックスを抱えたまま成人します。母が亡くなった今、ハーフ顔に憧れて美容整形を繰り返す絵里は、彫の深さを出すために、次は額にセメントを入れる手術をすべきか悩んでいます。

絵里のささやかな趣味は、毎週水曜日零時に更新される温泉マイスター・ゲルググの毒舌ブログを読むこと。有名旅館ほど酷評する彼が、唯一何度も訪れているという東北のとある温泉宿に惹かれ、5月のある日、絵里は2泊3日でこの温泉にやってきます。青いカラコンを入れて、外国人を装いチェックインした絵里は、何もかもが想像とかけ離れた温泉宿で、「分かりやすく嫌な感じの男」に出会い…。

美容整形で美しくなりたいという容姿コンプレックスだけでなく、毛深さゆえに23歳まで人前で裸になれず、銭湯や温泉にも行けなかった絵里は、性格的にもこじれまくっていて、外国人を装うというバレバレの嘘をつかなければ温泉宿にも泊まれない、イタイ女性。しかし、絵里がその温泉宿で出会ったゲルググこと影山は、よその家の飼い犬を溺愛する、ロリコン&クレーマーという、こちらも相当なこじれっぷりの中年男性。いけすかない影山に辟易しつつも、この温泉宿滞在中に、絵里は徐々に自分の鎧を脱ぎ棄てていきます。

主な登場人物は影山と絵里、温泉宿の女性ですが、印象的な人物設定と、彼らが毒づく激しさなど随所に勢いを感じる作品でした。しかし、影山と絵里の性格や行動はどこかしらありがち感を感じますし、温泉で裸になる=自分の殻を脱ぎ捨てるという図式も含め、全体的に上手にまとまった「ソツのなさ」が気になってしまい、正直あまり共感出来ませんでした。単に読み手である私の方がよっぽど屈折している、というだけなのかもしれませんが…。