無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

闘う君の唄を(中山七里)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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闘う君の唄を
中山七里
2015-10-07


埼玉県にある「神室幼稚園」に新任幼稚園教諭として赴任した喜多嶋凛。しかし、この幼稚園は、過去のある事件がもとで、特別に保護者の発言力が強く、園の運営は保護者会に管理され、人当たりは良い園長以下職員達も抗弁出来ないという特殊な環境下にありました。子供たちの教育に対して強い理想を掲げる凛はこの態勢に相容れず、「正しいと思ったことをすぐ口にする」性格ゆえ、赴任早々親たちの猛反発にあいます。しかし、凛のひたむきな情熱はモンスターペアレンツと化した親たちの理不尽な要求をも跳ね返し、事なかれ主義の園側も巻き込んで、受け持ちの三歳児たち始め、周囲の人々の信頼を得てゆきます。理想家の熱血教諭と周りに揶揄される凛ですが、その信念の裏にはある事情が…。

最初の数ページこそ、舞台は幼稚園、主人公は熱血教諭というピースフルな設定に戸惑いましたが、そこは中山七里さんの作品ですから、当然、そんじょそこらのありきたりでヌルい展開なぞあり得ません。序盤で明かされる「過去のある事件」からしてきな臭く、不穏な空気が漂ってきます。とはいえ、ミステリーとしては意外とシンプルで、神室幼稚園に赴任を決めるに至った凛のバックグラウンドや、事件の真相については、実は早々と見当がついてしまいました。

しかし、本作は凛という主人公を軸としたサクセスストーリーとしても、事件当事者と被害者双方の悲劇という考えさせられるテーマにおいても読み応えがあり、終始興味深く読みました。単なるクレーマーと化している親たちの鼻を明かす凛の大奮闘や、園児たちと心を通わせてゆくハートウォーミングな展開など、お決まりの展開さえも楽しく読めるという点で、改めて中山さんのリーダビリティの高さも実感しました。(以前から、特徴的な語彙選択や言い回しが有川浩さんに通ずるものがあるなぁと薄々感じていたのですが、今回のような作風だと、更にその印象が強まりました…)

中山七里さんの作品における登場人物のリンクについては、「ヒポクラテスの誓い」のレビューにも記しましたが、「闘う君の唄を」にも渡瀬刑事が登場します。個人的にはこれも嬉しいポイントでした。尚、本作は、中島みゆきさんの楽曲「ファイト!」から作品の構想を得ているそうで、各章のタイトルには、この楽曲の歌詞の一部が引用されています。

★ 中山七里さんの他作品に関する読後所感
「ヒポクラテスの誓い」
「嗤う淑女」