無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

御成門「燕楽」~10年ひと昔・時代と共に味も変化…~

大門近辺で用事を済ませた日、ちょっと足を延ばして「燕楽」さんに、ひとりお邪魔して夕食を頂きました。「燕楽」さんは、昔ながらの店構え、紺地に「とんかつ」と白抜きされた暖簾がはためく、ごくごく普通のとんかつ屋さん。この近辺、普段は滅多に訪れることはないのですが、父が慈恵医大付属病院に入院していた昔の一時期は、見舞いのために頻繁に通っていたエリア。

過去にはその見舞い帰りに「燕楽」さんに数回伺っているのですが、こちらで食事をする小一時間ほどのひとときが、私たち家族にとっては唯一気が休まる時間でした。当時は糖尿病の合併症で徐々に視力が失われつつある父の深刻な病状ゆえ、がっくりと落ち込んでいた私たち。検査や手術の間は食事もままならず、夜間の面会時間を終えると、飢餓感と脱力感で「もう一歩も動けない」とさえ思ったものです。

しかし、「燕楽」さんで温かい豚汁や、食べ応えのあるとんかつを頂き、胃の中が満たされていくにつれて、少しずつですが、気力や体力が回復していくのを実感しました。朗らかでお話好きのお店の方(奥さま?)の気働きのある接客にも心和み、「私たちが丈夫でいなければ、これからの局面に立ち向かえない。しっかり食べて元気をつけよう!」と思い直したのをよく覚えています。

ヒレカツ定食
定食は、ごはん(少なめでオーダー)、豚汁、お新香、ポテサラと豪華版。豚汁は具も汁もたっぷりで、とても良心的なセットです。 
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「燕楽」さんのとんかつの特徴は、その分厚さと、肉のしっとり具合だと思っています。5㎝はあるのではと思う厚みと、粗めの衣がしっかりと密着したごつごつとした見た目で硬そうに思えますが、噛みしめた時にくいっと歯が食い込んで離れる、驚きの柔らかさなのです。以前、カウンターから観察した様子から察するに、じっくり揚げた後に暫し休ませ、余熱でじわじわと火を通しているから、この柔らかさに仕上がるのではないかと。豚肉って甘くてジューシーで美味しいなぁと感動し、とんかつ好きになったきっかけは、このお店のおかげかもしれません。
 
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ヒレカツは2切れも頂けばお腹一杯になるボリュームながら、分厚い豚肉を食している重たさとも無縁です。ただ、今回の訪問では油切れが今一つと感じました。肉自体はしっとりとしているのですが、軽やかさに欠け、油の重たさを感じました。私の昔の感動が大きすぎたのか…と思っていたら、御主人が代替わりされていたようですね。残念。しかし、お店の雰囲気自体に変化はなく、とても和やかにひとりの夕食を頂くことが出来ました。

考えてみれば、初めて「燕楽」さんを訪問してから早10年。あの頃不安に苛まれていた数々の難局を、どうにかこうにか乗り越えて、細く長く闘病・介護生活は続いていますが、私も家族も時代と共に、少しずつ変化を迎え入れながらやってきました。食べ歩きをしていても、良くも悪くも時代の変化を受け入れざるを得ないのだろう状況を目の当たりにします。だからこそ、一期一会の食の感動を大事にしたいなと、改めて感じました。

ごちそうさまでした。

2016年4月某日の旅先: 御成門「燕楽」さん

燕楽とんかつ / 御成門駅大門駅汐留駅
夜総合点★★★☆☆ 3.0


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