無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

帯広「ぱんちょう」~経験したことのない食べ心地~

帯広に行って参りました!旅行はただでさえ心躍るイベントですが、ここのところ暫く、飼い犬の不調やスケジュールの都合で外出もままならなかったので、久しぶりの空路での遠出に加えて初めての帯広訪問、と気持ちをより昂らせて出発しました。十勝帯広といえば、まずは雄大な自然が目に浮かびますが、今回は日程と交通手段が限られていたため、旅程は帯広市中心。観光は僅かでしたが、温泉と食を堪能してきました。

今回の主目的のひとつでもあったのが、帯広名物の豚丼を頂くことでした。敬愛する平松洋子さんのエッセイ「ステーキを下町で」に登場する豚丼の描写がとてつもなく美味しそうで、いつか帯広に行った暁にはぜひ、と夢見ていた一食。地元名物だけあって市内には豚丼を主体とするお店がたくさんありますが、今回は1933年創業、豚丼発祥の店として名高い「ぱんちょう」さんに伺うことにしました。
 
土地勘のない旅行者には有難い、帯広駅近くのわかりやすい場所にあるお店には11時の開店前に到着。快晴だったこの日、帯広にしては気温も高かったのですが、湿度の低さと爽やかに吹き抜ける風のお蔭で、ちっとも苦になりません。店先で開店を待っていた私たちに、暖簾を掲げるより先に、お店の方が注文を取りに来て下さいました。「ぱんちょう」さのお品書きは、肉の量によってランクが分かれる豚丼と、なめこかわかめのお椀、それに飲み物数種、という潔いラインナップ。事前に予習してあったので、迷わず豚丼の「梅」を注文しました。

豚丼(梅)
通常はランクの高い順に松竹梅と並ぶ品書きですが、「ぱんちょう」さんでは、初代の奥さまの名前に因んで「梅」が上位にきて「竹」「松」と続きます。最高ランクの「華」が一番肉の量が多いそうなのですが、今回は「梅」をオーダー。ご飯少なめでお願いしました。

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たくあんおひやに続いて登場した豚丼の、丼の蓋から肉がはみ出す様も有名なビジュアル。「梅」の肉量目安は豚肉7枚だそうですが、一切れが大きく、丼に収まりきらないのです。 

蓋を開ければ、炭火焼の香ばしい香りと、鰻丼にも似た脂混じりの甘辛いタレの香りが立ち登り、網焼きの焼き目と、艶やかで光沢のある豚ロースの照りが目に飛び込みました。目も鼻も刺激されて、食欲が一気に倍増!前述の平松洋子さんご著書によって、その豚肉の歯応えの特徴は承知していたつもりですが、実際に頂いてみるとやはり瞠目に値します。

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さっくりと身離れよく、すいすいと噛み切れる軽やかさは、これまで頂いたことのない食感。よく甘いと例えられる脂は、むしろ瑞々しいと表現したい爽やかさでした。あまりにも軽やかな食べ心地に箸が止まらず、けれど肉の存在感は明確で、「豚丼を食らってる」という満足感もしっかり得られました。これでお値段1100円也。太っ腹!

実は、別件での移動中、地元タクシーの運転手さんから、『ぱんちょう』よりも『はげ天』が美味しいという意見を伺ったのです。曰く、「『ぱんちょう』はタレがちょっと苦くて…」とのことでした。なるほど「苦い」とは、この炭火焼の香ばしさと、コク苦いタレの味を指していらしたのでしょうね。甘めタレが苦手で苦味を好む私にはむしろウェルカムだと確信していたのですが、実際頂いても、正に私好みの味。タレの濃度は濃いけれど、豚肉そのものの味を消さない甘辛さのバランスも絶妙で、きちんと硬めに炊かれたコシヒカリのご飯にしみたタレもまた旨し。
瞬く間に完食してしまいました。
 
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ご飯少なめとはいえお腹一杯になりましたが、胃もたれするどっしり感は皆無でした。「ステーキを下町で」における「ぱんちょう」さん豚丼の紹介として、どこに消えてしまったかかわからないほど軽やかで、食べた後にすぐお代わりが出来るという食べ心地だという総評が印象的でしたが、我が身を以ってそれを体感出来ました。今思い出してみても、また食べたい気持ちが湧いてきます。

次回帯広を訪れる時もまた「ぱんちょう」さんを再訪したいと思いますし、その時は迷わず「華」をオーダーする所存です。

ごちそうさまでした。

2016年5月某日の旅先: 北海道帯広市「ぱんちょう」さん

ぱんちょう豚丼 / 帯広駅
昼総合点★★★☆☆ 3.5