無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

山梨・長坂「蕎麦いち」~赴きある空間で頂く、清らかな蕎麦と野菜~

帰りしなの昼食はお蕎麦を頂きに、長坂にある「蕎麦いち」さんにお邪魔しました。各種ガイドブックにも掲載されているお店ですが、身内の者が過去に一度、現地に住む友人に連れて行ってもらったことがあり、美味しかったのでもう一度行きたい!というひと声もあって、こちらに決めました。

国道からさほど離れているわけではないのですが、道が入り組んでいてちょっと分かりにくい場所にお店はあります。鬱蒼と茂った木立の奥に突如現れる古民家とその庭の敷地はかなり広く、一瞬異空間に迷い込んだかと錯覚してしまいます。ここに停めていいんですよね?と躊躇してしまう駐車場から、建物に続く小道も何だか宝探しのようです。

所々に掲げられた手書きの看板には「時間のない人、せかす人はご遠慮ください」との但し書き、そして入口には入店待ちの際に使用する記名ボードもあり、どうやら休日はかなり混み合うお店のようです。

DSC_1400DSC_1399-2
近づいてよくよく見ると、建物も年季が入ってはいるものの、相当立派です。それもそのはず、明治時代に病院として使われていた築140年余の建物なのだそう。

DSC_1394
店内に入ると更に素敵な空間が用意されていました。長い間使われたことで、滑らかでこなれた色合いに変わった木のテーブル、曲げ木カーブの背もたれが美しい木製のアームチェアや、しっくりと身体を包みこんでくれそうな艶やかな皮張りの椅子など、年月を経て大切に使われてきたであろう家具たちがずらり。タイプの違うものがここそこに点在していますが、それぞれが醸し出す雰囲気が同じなので、自然と統一が取れています。
 DSC_1398
DSC_1395
他にも祖母の家にあったような足踏みミシンが置いてあったり、床の間や押し入れのスペース、窓に面したカウンターに飾られた、木の節を活かした梯子や流木の小物、分銅秤や色ガラス瓶など、旧き良きものたちが居心地よさそうに呼吸している空間は、単なる独りよがりの懐古趣味ではありません。木立から続く敷地と建物同様、店主夫妻の愛すべき物たちが集結した場所なのだと感じました。庭(というより森?)が見渡せる窓からの採光と、温かみのあるランプの灯りの中に息づく世界観に、うっとり酔いしれました。

◆ 揚げ野菜のおろしそば
DSC_1392
肝心の蕎麦は、ご主人が自ら作った石臼で製粉した蕎麦粉と、八ヶ岳の水を使った十割蕎麦。供されたらすぐに食してほしいとの思いから、蕎麦が来たら席を立たないでほしいとの注意書きも(笑)。そしてもうひとつの目玉が八ヶ岳南麓で収穫された野菜。野菜の天ざる等もありましたが、もう少しあっさり頂ける揚げ野菜のおろしそばをお願いしました。先につけ汁が供されましたが、鬼おろしでおろしたシャキシャキ感の残る粗めの大根おろしが入ったつけ汁が見えないほど、こんもりと盛られた10種ほどの素揚げ野菜が目にも鮮やか。

DSC_1393
ほどなく供された蕎麦をつけて手繰ってみると、塩気がきつすぎないあっさり出汁に、瑞々しく喉ごし滑らかな蕎麦と、これまた甘味と水気をたっぷり含んだ、歯応えある素揚げ野菜が織りなす透明感ある味わいが印象的。蕎麦も野菜も本当に美味しかった!

蕎麦にも野菜にも、おそらく強いこだわりをお持ちなのでしょうが、それが決して押しつけがましくなく、食べ手であるこちらをほっとさせるような味わいと、細胞が生き生きと蘇るような爽快感を感じながら頂きました。きっと、建物やインテリアに手をかけるのと同様、食材を慈しみながら料理されているのでしょうね。
 
DSC_1396
2階にはカフェが併設されており、時間とお腹に余裕があれば立ち寄りたかったのですが、今回は団体行動のため断念。足繁く通うにはややハードルの高い場所ですが、お蕎麦ももう一度味わいたいですし、この素敵な空間にふさわしくゆったりとした時間を過ごしたいので、準備万端整えてぜひ再訪したいと思いました。

ごちそうさまでした。

ichiそば(蕎麦) / 北杜市その他)
昼総合点★★★☆☆ 3.6