無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

西荻窪「CICLO(チクロ)」~今後愛用させていただきます!~

私が西荻窪に居を構えた当時からあった、歴史ある古いお蕎麦屋さんが閉店してしまった後、長いこと店舗に手を入れていたので何ができるのかと気になっていたら、なんとイタリアンのお店になっていました。オープンしてからも大々的な宣伝もなく、何よりも看板もなくて店名すら不明だったのですが、ガラス張りの外壁に貼ってあった紙に小さく書かれた店名と電話番号を頼りに近所に住む友人が予約を入れてくれて、初訪問と相成りました。

ふたを開けてみれば、店頭に飾られた自転車が表している通り、イタリア語で自転車を意味する「CICLO(チクロ)」さん、が店名であること、且つ吉祥寺にあるイタリアンの「パノラマキッチン」さんの姉妹店だということが判明。とはいえ、私はまだ「パノラマキッチン」さんには伺ったことがないので、お料理に関しては未知数でした。

座席は、通りに面した入り口付近と奥、それぞれにテーブル席が、そしてキッチンを囲むカウンター。蕎麦屋の面影が残るのは、木の柱部分ぐらいで、コンクリート壁と木の組み合わせがシンプルですが、無骨過ぎず、なぜか心地よい温かみを感じます。通りに面した店頭がガラス張りで、店内も天井高なので、小さいながらもとても開放感のある店内です。今回は、厨房を正面に見るカウンター席に座りました。

メニューはすべてアラカルトですが、驚くべきはその価格。前菜はすべて500円、メインやパスタも1200円ぐらいのレンジのものばかりで、2000円を超えるメニューが見当たりません。色々オーダーしてみると、前菜はワンコインとはいえ量も十分。そして、想像以上にどれも美味しい!3人なら前菜5品にメインとパスタで良いのでは、というスタッフの方のアドバイスに従って、この日頂いたのは、こんなメニューでした。

◆ とうもろこしのパンナコッタ
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バニラビーンズが入った甘いパンナコッタみたいですが、中身はとうもろこし、そして黒い粒々は胡椒です。滑らか&まろやかな舌触りで、とうもろこしの自然の甘味が活きたそのままの味が凝縮されています。夏場は色々なところでとうもろこしのお料理を頂きますが、これは新鮮。とても美味しかったです。
 
◆ 自家製ドライトマト
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ミニトマトを天板に並べ、オーブンでゆっくり火入れする方法でセミドライトマトを作ると、その甘さに驚嘆するのですが、こちらはプロの技で更に甘くジューシーに仕上げた一品。ゆっくりじっくり時間をかけるのがコツだとか。これもかなり好き!

◆ 炙り鰹のカルパッチョ
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全員鰹好きなので即決したメニュー。艶やかに光るエロティックな赤い身にオリーブオイルは良く合いますね。塩たたき風のシンプルな味付けですが、醤油やポン酢よりも塩の方が、鰹自体の味わいと瑞々しさを堪能できるような気がして、私は一番好きな頂き方です。

◆ 鶏レバーのテリーナ
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お店の方のお薦めに従ってオーダーしました。とろりんとしたレバーの甘さとコクに、チーズの風味が加わって、かなり食べ応えがありましたが、ここまで頂いた品々のどれもが、味が濃すぎず絶妙な塩加減で、私の口にとても合いました。素材の持ち味を活かした、というと凡庸な表現になってしまいますが、、ギリギリの調味でもとの素材の良さを殺さず、けれど頂いた時の味の輪郭はハッキリしていて、ふくよかな余韻が残るという、その匙加減が大変気に入りました。

ルッコラパルミジャーノのインサラータ
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ポピュラーなお料理ですが、細かくちぎられていない野性的なルッコラに、山盛りのパルミジャーノがツボでした。こういうセンス、好きです。

◆ 豚肉ロースト
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メニュー名を失念。プリフィクスのコースならば、メインの肉料理はラムや蝦夷鹿、あるいは牛を選んでしまう私ですが、今回はシェア前提なので、豚肉好き&予約をしてくれた友人の好みを優先しました。この友人と一緒の時は、こうしてメインの豚ローストをシェアして頂く機会が結構あるものの、シンプルであればあるほど豚特有の香りや甘みに途中で飽きてしまうのですが、今回は違いました。レモングラスの風味をしっかりまとった豚肉は、鼻に抜ける爽やかな香りによってさっぱりと頂け、かといってエキゾチック過ぎず、最後まで美味しく頂きました。こういうハーブ使いは初めて体験しましたが、面白いですね。

◆ トマトとウニのパスタ
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パスタは最初から3人分シェアしてサーブして下さいました。こちらもシンプルながらふくよかな味わいで、量もちょうど良かったです。

◆ パンナコッタ&チョコレートのテリーヌ&コーヒー
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デザートは2つをシェア。チョコレートのテリーヌは私の希望ですが、フォンダンショコラのような濃厚さが、この時の気分にぴったりでした。デザートと共に頂いたコーヒーは、一杯ずつエアロプレスで淹れてくれるスタイルだったのが驚き。どんなに料理が美味しいお店でも食後のコーヒーにはがっかりさせられることが多いのですが、最後の一杯まで疎かにしない丁寧な対応が嬉しかったです。

なお、カウンターには最初から一人一袋ずつグリッシーニが置かれているのも良かったです。パンだとお腹一杯になってしまうのですが、パン代わりに、自分のペースでぽりぽりいけるのが、口さみしくなってしまうタイプの私には良いあんばいでした。

この日はスタッフの方が3名入らっしゃいましたが、シェフ始め3名とも爽やか&笑顔の絶えないイケメンで、入店した際は、あぁ今時の…と、スタイル優先のお店ではないかと正直危ぶみました。が、カウンター越しに色々とお話ししてみると、「働く人の味方でいたい」と、夜だけながらLO24時までの営業とすること、一人でもつまんで飲んでパスタで〆られるくらいの価格設定にしていることなど、筋が一本通った姿勢が好ましく、素材の組み合わせのセンスと味が想像以上に好みだったことで、見かけで早とちりした自分をちょっと恥ずかしく思いました。

地元で偏愛している「オルガン」さんのイタリア版、と言ってしまうのはとても乱暴なたとえですが、「あ~、今日は疲れたからご飯作りたくないけど、なんか美味しいもの食べて帰りたいな」なんて思う日に、ひとりでも気軽に寄れるキャパの広さ、手作り感溢れるお店の雰囲気、お料理の満足度、そしてお値段的にも優しいという点で、私には似ているように思えます。町に一軒あると助かる大衆的なキッチン、それこそが「トラットリア」であり、「ビストロ」ですよね。

ご近所をいいことに、これからもちょくちょくお邪魔したいと思います。ごちそうさまでした。

チクロ パノラマ キッチンイタリアン / 西荻窪駅
夜総合点★★★☆☆ 3.8