無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

小泉今日子書評集(小泉今日子)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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元アイドルで女優の小泉今日子さんが2005年~2014年の10年間、読売新聞の読書委員の一人として同紙に掲載していた書評をまとめたもの。過去に新聞の書評委員を務めた作家さんやエッセイストの方々が書いているところによると、あれはなかなか大変なお仕事らしいのだが、小泉今日子さんは、本来2年任期のところ5期(=10年)も務めたということがまず、最初のすごい!ポイント。私も新聞の書評欄を楽しみに読んでいる一人で、新刊広告と共に必ずチェックするのだけど、あいにく私が購読している新聞は他紙なので、リアルタイムで彼女の書評を読むことができなかった。なので、こうやって一冊にまとめられたものを読むことが出来て嬉しい。

これまで色々な人の書評集を読んできたけど、この小泉今日子書評集」においては、セレクトされた本も、書評自体も、私史上今までで一番ピン!と来るものが多かった。書評のために取り上げられた本の多くが小説で、当時話題の作品だったり、私が既に読み終えていた本も多く、選書の好みが似ているからというのも理由のひとつだけれど、手に取ったことのない本であっても、彼女の書評を読むと「読んでみたいな」と興味が湧いてくる書き方なのだ。決して長文ではないのに、その本を読んで彼女が感じた様々な思いが短い言葉に的確に込められていて、心にまっすぐに刺さる。

芸能人としての小泉今日子さんに対しては、好き嫌いも含め特別な思い入れはなかったのだけど、前書きで綴られている「本を一冊読み終えると心の中の森がむくむくと豊かになるような感覚があった」という一文を読んだ瞬間、「そうそう!」と同志と巡り合った気持ちになれた。元々は幼少期は読書家ではなかった彼女の「目覚め」は小学校高学年の時だそう。たまたま遊び相手が見つからず退屈な午後を過ごしていたところ、「なにげなく本棚の本を手に取」り、「姉が買った本」を「暇つぶしに読み始めたら面白い!一気に読み終えた本を前に、誇らしげな征服感と、とっても大事な秘密を共有したような喜びを感じた。」という。本を読む楽しみを「静かなのにとてもエキサイティングな読書という時間」と表現する著者は「少し大人になったような気がして嬉しかった。」そうだ。わかるわぁ。

小泉今日子さん自身も書いている通り、彼女が読書委員を務めた期間が38歳~48歳という、人生の折り返しで来し方行く末を模索しているような時期だったからこそ、選ばれた本を通して、彼女なりの生き方や考え方などが反映されている点も面白かったし、一人の女性としての視点、芸能界に身を置く女優としての視点、実生活で交流のあった友人としての視点、など「小泉今日子」という人間にしか書けない、ワン&オンリーな目線がとても魅力的だった。深く首肯したのは、私自身も年を重ねるごとに感じていることを代弁してくれたかのようなふたつの文章。

「大人になって、さびしいと感じるのは人に叱られなくなることかもしれない」と、若い頃から大人社会で生きてきた著者は大人になってから気づく。「叱られながら守られていたのだ」ということに。そしてそのことに「今になって感謝する」。「今でも時々誰かに叱られたいと思う」ようなときには本を読むのだそうだ。「こんな風にこっそり何かに気づかせてくれる一冊にちゃんと出会えるからだ。」と、ある本の書評はこんな文章で締め括られていた。

そして、人生の折り返し地点について綴られた次の言葉は、これまでずっとやみくもに走って、肩で息をするような生き方をしてきたけれど、今ちょっと立ち止まって周りの景色を眺めつつ、暫くのんびり歩く休止時間を自分に許している私の心に深く響いた。「この世に生まれてヨーイドン!と走り出して、四十歳で折り返してみたら、生まれる前の場所、死に向かって走っていることに気付く。折り返す前はどこに向かっているのか分からないから、流れる景色を楽しむ余裕もなく、ただただ走る。折り返して向かう先がわかったら安心して景色を楽しむことができる。その景色が生きるということなのかもしれない。」私、今人生をサボっちゃってるのかなぁ…というような後ろめたさも若干抱えていたのだけど、これを読んでとても気持ちが軽くなった。復路は向かう先がわかっているんだから、もう少しだけ、道草食っててもいいよね。