無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

校閲ガール トルネード(宮木あや子)~読後所感~

※あくまでも個人的な感想です。一部作品のあらすじやテーマに触れている箇所があります。
まだこの本を読まれていない方は、以下記述に目を通される際にはどうぞご留意ください。

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前作のスピンオフもの「校閲ガール ア・ラ・モード」も良かったけれど、今作はメインに戻り、河野悦子が主役の待望の一冊。今回はなんと、悦子が憧れの「Lassy」編集部への転属の足掛かりとなりそうなチャンスを得たり、是永との距離が急接近したり、と波乱万丈な展開だが、この躍動感あるストーリーとテンポの良さ、一見型破りに見えるが、人としての根っこの部分は至極真っ当な悦子のキャラクターの魅力を存分に堪能できて、とても面白かった。森尾や今井、加奈子、米岡、貝塚らお馴染みの面々も、悦子が主役だからこそより一層光って見える。
 


今回改めて感じたのは、悦子の強さと凛々しさの元。たとえば、自分と人とを比べて優劣をつけるという発想が全くないこと。「勝ち組・負け組」と線引きをするような外野の価値観は一切気にならない。「みんなが持っているから自分も」などとは思わず、ひたすら自分の興味を追求していく姿。踏み抜かれてしまいそうな床の狭いボロ家に住んでも、その分お給料は大好きな洋服に回したい、と悦子基準による確固たる優先順位。特に社会人ともなると、大樹に寄りがちだったり、世間一般で「王道」とされる価値観が安泰そうに見えたり、といろいろな雑音につい惑わされそうになるが、もとよりそんな発想すらない悦子の揺るぎなさは力強く、とても頼もしい。

読書の過程では、喜怒哀楽様々な感情が湧きあがるので、本を選ぶにもTPOというものがある。存分に呵々大笑したくなるような本は周囲を憚らない自宅で、心が折れそうな時にはいっそのこと、とことん涙腺を刺激される本を読んで泣いてすっきり、一日雨でおこもり万歳!という日には、中断せずに一気読みできる長編ミステリー…というふうに、その時々のシチュエーションや気分に合わせて自宅の本棚から一冊を選ぶことも、読書の楽しみの一つであると思う。

私にとって校閲ガール」シリーズは、なんだかもやもやとした不安に苛まれるとき、「世間一般では」という枕詞に続く何か大きなものに飲み込まれそうになる時にこそ、手に取りたい本だ。「元気になれる」「勇気づけられる」という言葉を当てはめるのは安直な気もするが、読み終えた後には自分の決断に対する揺らぎがすうっと消え、「よし、この道をまっすぐ進むってことでいいのだ」という気持ちになる。もちろん、悩ましいことが一切ない時にもいい。文句なくスカッと気分が晴れ、「よっしゃあ!」と背筋を伸ばしたくなるのは、間違いない。

ちなみに、本作の刊行と前後してシリーズ第一作の校閲ガール」が「地味にスゴイ!(タイトル…↓)」としてドラマ化されたのは周知のとおり。このシリーズが広く知られるようになったのは一読者として大変嬉しいのだけれど、ドラマキャストを見た瞬間、既に第一作を読んだ2014年の時点から私の中で完成されている「河野悦子と仲間たち」のイメージとの乖離に不安を覚え(ごめんなさい)、実はドラマ作品は一度も観ていない。作品愛とは、かくも複雑なものなのだ。


 
宮木あや子さんの他作品に関する読後所感
「校閲ガール ア・ラ・モード」