無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

熱海MOA美術館~高台から臨むパノラマも絵の如し~

初めて熱海の街を巡り、投宿して実感したことは、海と山の近さ、そして坂の険しさでした。海沿いの親水公園には「津波注意」の警告板が掲げられていましたが、不謹慎な想像とはいえ、地震発生時には津波の心配だけでなく、山の斜面が崩れることの心配も出てきそうです。そして、万が一津波が起こって高台に逃げる際には、この急勾配が高齢者の方には大きな壁となるのでは、という思いも抱きました。

地震国・日本に暮らし、大震災の怖さも経験した以上、どこにいても地震の心配は尽きませんが、ビル群に囲まれた都心に暮らす覚悟以上に、海の近くや山のそばで暮らすには相応の覚悟が要るのだと、肌で感じました。

一方で、高低差が大きいからこそ、その地形が作り出す景観も、熱海の街の欠かせない魅力のひとつとなっています。そんな熱海の高台にある、7万坪に及ぶ広大な土地にに造られた私設美術館、MOA美術館を訪れました。

◆ エントランス・アプローチ
入館してまず驚くのは、エントランス・アプローチの長さです。受付に辿り着くまでには、合計7つものトンネル式のエスカレーターを使うのですが、総延長は約200m、高低差は60mにも及び、所要時間は約7分。途中には円形ホールもあり、時間ごとに変化するイルミネーションの色彩も加わって、近未来的な不思議な雰囲気が味わえます。
 
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◆ 建物と眺望
MOA美術館に行くにあたって一番楽しみにしていたのは、この景観です。相模灘を一望できるこのパノラマは、この立地だからこそ。やや曇り空で快晴とは言えませんでしたが、初島はばっちり見えました。インド産の砂岩で造られている建物も、砂色のグラデーションが美しく、素敵でした。
 
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本館には能楽堂が併設されています。MOA美術館は「紅白梅図屏風」などの日本絵画や東洋美術品のコレクションが中心で、近未来的なアプローチとは真逆の、東洋美に溢れた本館の佇まいを面白く感じました。

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◆ 黄金の茶室(復元)
豊臣秀吉が命じて作らせた黄金の茶室の復元物が常設されています。壁・天井・柱・茶器と至る所全て金張で、床の緋色の畳表は絨毯のような材質で、障子にも緋色の紋紗が張られていたという凝りようで、毒々しいまでの絢爛さが、つくづく秀吉らしいと感じました。
 
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私たちが訪れた時の企画展は、東日本および東海地区の、それぞれの伝統工芸展の入選作品から更に選りすぐった作品が展示されていました。いうなれば伝統工芸の最先端ですが、予想を超えた見事な作品ばかりで、夢中で見入ってしまいました。蒔絵や漆器、織物、木彫など様々なジャンルの伝統工芸が一堂に会しているのですが、特に陶磁器の美しさは溜息もので、滑らかな曲線や、凝った紋様、銀泥を効かせた見事な色彩など、撮影禁止でなければ、全て写真に収めたかったくらいです。緻密で繊細な技術を駆使した日本の工芸品は、世界に誇れる芸術品です!

限られたスペースにぎっしりと展示されていると、小刻みに移動しながら鑑賞するせいで意外と疲れてしまうものですが、この美術館は広大な敷地ゆえ展示物がゆったりと配されているので、とても見やすく、疲れにくい美術館でした。今回の旅の連れが年配者だったので、体力的な心配が杞憂に終わり、とても安心しました。

天気も悪く時間の関係もあったので今回は割愛しましたが、隣接されている日本庭園もゆっくり回ってみたいところでした。また熱海の街に降り立つ機会があれば、ぜひ再訪して、ゆっくり過ごしてみたいです。

2015年10月某日の旅先: 静岡県熱海市「MOA美術館」