無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

富山市「富山県立近代美術館」~企画展も常設展も見応えアリ~

富山駅に降り立つのは、実に10何年ぶりです。当時は当然新幹線が開通していないばかりか、金沢さえもまだ今ほどメジャーなスポットではなく、北陸に行くと友人に告げると「何しに?」と聞かれる始末でした。新幹線が開通した今、富山駅のなんと立派で綺麗なことか!(失礼!)
 
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前回は、室井滋さんと宮部みゆきさんの共著「チチンプイプイ」という本を読んで、室井さんの地元自慢、滑川の深層水を使ったリラクゼーションスポット「タラソピア」に興味が湧き、富山空港から富山駅滑川駅、と乗り継いで向かったのでした。



しかし、「タラソピア」で過ごした後は、滑川から一路、金沢に向かってしまったので、富山は富山空港と在来線利用のために通過しただけ。富山市内を巡るのは、今回が初めてです。

到着時は小糠雨が降るあいにくの空模様でしたが、この天気こそ北陸らしい気もします。旅先では、何はともあれ美術館巡り。富山駅から、セントラム(市内電車環状線)に乗って向かった先は、「富山県立近代美術館」です。
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ピカソ、ルオー、シャガールから、ダリなどのシュルレアリスム画家、ウォーホルまで、主に20世紀前半の作品を観ることが出来るのですが、1階で開催されていた企画展「第11回世界ポスタートリエンナーレトヤマ2015」の展示がことのほか面白く、約380点もの作品を観ているうちに早や2時間、あっという間に午前中が過ぎてしまい、常設展を観る時間が無くなってしまいました。
 
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12時から、美術館に程近いお店に予約を入れていたので、お昼のために一旦退出。昼食後、改めて訪問し、常設展を鑑賞しました。特に興味深かったのが、常設V室に展示されていた日本の椅子、そして「Hiroshima Appeals 平和ポスター」の展示です。日本グラフィックデザイナー協会と広島国際文化財団による、国内外に向けて平和を呼び掛けるポスターキャンペーンだそうですが、1983年から一時中断しながらも存続されたこの共同事業の軌跡を、ポスター作品で辿ることができます。

企画展のポスタートリエンナーレもそうですが、パッと見て足を止めるだけのインパクトだけでなく、一枚の作品で明確なメッセージを伝える表現力、ポスターとしてのデザイン性を損なうことなく必要な情報(日時や場所など)を詰め込むための工夫など、ポスター作品の、絵画とは違う表現の面白さや難しさを感じました。

「Hiroshima Appeals」
には、作者のコメントも展示されていましたが、被爆地から呼びかける平和という、あまりにも明瞭且つ重みある題材に、どのように伝えれば良いか、各人苦悩があったようです。それぞれ表現の仕方は違っていても、ポスターという一枚から伝わる切なる願いは同じで、その静かな迫力に心打たれました。
 
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シンプルな外観や中央吹き抜けの展示会場など、建物自体もなかなか素敵な「富山県立近代美術館」なのですが、学芸員の方のお話によると、耐震性の問題や老朽化もあり、2017年以降には富山駅北側の、富岩運河海水公園への移転新築が予定されているそうです。現館への愛着がおありのようで残念がっていらっしゃいましたが、現館のロケーションは富山駅からやや離れているので、新設地の方がよりアクセスが良く、来館者も増えるのではとも思いました。

ただ、新設の建物には東京の某有名洋食店の出店が決まっているという話を聞き、少々残念に感じました。せっかく「とやまの山幸」キャンペーン始め、県を挙げて豊かな自然の恵みを受けた富山の食の素晴らしさをアピールをしているのに、富山らしい店ではなく、東京から引っ張ってきた洋食店を入れるなんて、勿体ない気がするのです。(もちろん、その洋食店に罪はありませんが)

北陸新幹線開通で富山市が活気づくこと自体は大賛成ですが、どこにでもあるような店ばかりの、没個性な地方都市になってしまわぬことを、強く願っています。一介の観光者である私が言うべきことではないかもしれませんが・・・。

2015年11月某日の旅先: 富山市「富山県立近代美術館」