無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

銀座・松屋銀座「絵本のひきだし 林明子原画展」~ひとたび開けばそこは~

待ちわびていた「絵本のひきだし 林明子原画展」が、ようやく東京に巡回してきたので、早速松屋銀座の会場に観に行ってきた。
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今思えば大変に贅沢だったのだが、幼少の頃の我が家には絵本が溢れていた。今は元気一杯の母だが、当時は体が丈夫ではなく、母と共に家で過ごす時間が多かった私を退屈させないようにとの配慮もあったのだろう、両親、祖父母、伯母たちから惜しみなく本を与えられていた。名作と言われる絵本は和洋問わず、地球のなりたちや実験ものなど、かがくのともなどの絵本も多かった。
 
私はどちらかというと優しいタッチのものより、安野光雅さんや長新太さんのような大人びた挿画の絵本や、「すてきな三にんぐみ」や「げんきなマドレーヌ」などの洋モノが好きだったのだが、林明子さんの可愛らしい絵だけは別格で、ゾッコン惚れ込んでいた。だって、子供たちがとびきり可愛いのだ!
愛くるしい顔つきはもちろん、ぷくぷくした腕の質感や、ぺたんと座った時の足の形、サラサラの髪の毛(細かく描かれている)など、思わず手を伸ばして抱きしめたくなるリアリティは、水彩画のような
ファンタジックな可愛さとは一線を画している(と、当時そこまで深く考えていたわけではないが)。

すてきな三にんぐみ
トミー=アンゲラー
1969-12-16



会場内はもちろん撮影禁止だが、入口の壁のイラストは自由に撮影が可能で、このブログに貼ってあるのは、それらの一部。大好きな「こんとあき」がお出迎え!
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かつて飽くことなくめくっていた絵本の絵がずらりと展示された壁を辿りながら、懐かしさと嬉しさに
大興奮!
頬ずりしたくなるような、子供たちの独特な佇まいを見事に表現した林明子さんの絵のモデルとなっているのは、ご自身が可愛がっていらした甥御さん・姪御さんなのだそう。林さんの絵の中の少年少女の愛くるしい姿は、彼ら・彼女らの表情や仕草を
忠実に描いただけでなく、林さんの愛情深い眼差しも入っているからこそのものなんだなぁ、と深く納得。

200点にも及ぶ原画やラフスケッチは見応え十分。馴染み深い絵との再会が楽しいのはもちろんだが、多忙な創作活動の中で試みていた様々な技法や、「北海道の牧場で」という本の挿絵の緻密さに感嘆したり、初めて出会う林明子ワールドもたくさんあって、その世界観にどっぷりと浸かった。


この謎ときと仕掛けがたまらなく好きで、当時早速真似して家中にヒントメモを隠したのだが、うまく見つけてもらえなくて消化不良だった
・・・。でも今でもやってみたくなる。
主人公まみこのお母さんが、まみこのメモをヒントに家中をさがす物語なので、リビング、子供部屋、玄関や庭など家の中の風景がたくさん出てくるのだが、絵の描き込みが細かくて、ページの隅々まで舐めるようにして眺めたなぁ。「ごらんなさい」とか「おさらいなさいませ」など、まみこが書いたメモの独特の言葉遣いも大好きだったし、当時の絵本に登場する「お母さん」とは一味違う、まみこのお母さんのヘアスタイルにもシビれてた。

◆こんとあき



ぬいぐるみにはほとんど興味のない子供だったのに、「こん」のぬいぐるみだけは欲しくてたまらなかった。
私のように感じるひとはたくさんいるのだろう、展示会場のショップには山ほどの「こん」のぬいぐるみがいて、思わず連れて帰りそうになったが、私が欲しいのはぬいぐるみそのものではなく、「こん」と「あき」の関係のように、自分の相棒となってくれる「こん」の存在そのものなんだと気づき、手を引っ込めた。

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この絵本を脇に置いて、何度パンを焼いたことだろう…。パンの絵本と言えば、「からすのパンやさん」や、「あんぱんまん」も好きだったが、美味しそうなきつね色の焦げ目のパンのイラストといい、実験みたいなパン作りの過程といい、愛読書は断然この一冊だった。パンを作るときのわくわく感、たとえば発酵したイースト菌のぶくぶくを眺めたり、ぷぅっと膨らんだ生地に指で穴をあけたり、粘度みたいにパンをこねたり成形したり…手に吸い付く生地の感触や、パンが焼ける時の香りなど、五感と共に思い出に残る一冊だ。
 



こんなに大人になっても、ひとたび絵本を開けば当時の心弾む気持ちが思い出せる。読み聞かせてくれた父や母や祖母の声や温もりを懐かしく思い出し、何だかきゅうっと胸が締め付けられる。絵本って本当に素敵だ!

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絵本のひきだし 林明子原画展(松屋銀座にて7月29日まで)
https://www.asahi.com/event/hayashiakiko/