無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

鎌倉「神奈川県立近代美術館 鎌倉館」~さようなら、カマキン~

1月31日を以って、神奈川県立近代美術館の鎌倉館、通称カマキンが閉館となります。今後、収蔵品は鎌倉別館葉山館で管理されるそうですが、鎌倉館に飾られるのは最後となる古賀春江の作品を見るために、最後の展覧会「鎌倉からはじまった1951-2016」(三期に分けて展示されており、今回は最終となる「Part Ⅲ1951-1965」)に出掛けてきました。

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鶴岡八幡宮境内にあるカマキンは、坂倉準三設計の建物自体も大好きで、平家池に面した外観や、大谷石を用いた1階部分の中庭、水面の光を反射させるラスの抜け感など、軽やかでありながら静謐な佇まいがあり、とても心落ち着く場所です。最後にここに来たのはあいにくの雨の日でしたが、雨の水滴が池に落ちる音を聞きながらの風景もまた良いものでした。

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古賀春江の作品は「窓外の化粧」「サーカスの景」の2点が展示されており、ここでの見納めとばかりに、とっくりと向き合ってきました。このほかにも、松本竣介麻生三郎、、難波田龍起、糸園和三郎など、この美術館が発掘してきた気鋭の作家たちの作品が展示されていましたが、画風は違えど、どれも皆静かな気迫をたたえ、見るものを惹き付ける強さを感じさせる作品ばかりだったのが印象的でした。
 
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今回の閉館は、鶴岡八幡宮との借地契約満了と、建物自体の老朽化(しかし、国史跡指定の境内にある建物には、史跡にそぐうもの以外の変更は認められないことになっているため、建物の改修も難しかったのだそうです)が理由でした。鎌倉には滅多に足を運ぶことのなかった私でも、数少ない機会の中で必ずカマキンを訪れていました。鶴岡八幡宮境内にあるがゆえに気軽に立ち寄れて、良いロケーションの美術館だなぁと呑気に感じていたのですが、境内にあったがゆえに、閉館を余儀なくされてしまったわけです。こんなこともあるのですね。
 
1951年設立ということは、終戦からわずか6年でカマキンが誕生したわけですが、戦後色々と大変な時期に、こうした芸術や文化的活動が、どれだけ皆に希望を与え、心のゆとりをもたらしたことでしょうか。先日も、東日本大震災後3週間で気仙沼図書館が復活したという新聞記事を読みました。私たちは、霞を食べては生きていけませんが、文化や芸術やスポーツといったものが、私たちが生きていく上での「よすが」であるのも、また揺るぎない真理なのだと思います。

カマキンがなくなることはさみしいですが、私たちの中にある、こうしたものを大切だと思う気持ちが消えることはありません。最後に、しっかりと、その風景を目に焼き付けて帰りました。
長い間おつかれさまでした。ありがとう、さようなら。
 
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