無芸大食・読書亡羊~美味しいものと本と旅~

美味しいものと本と旅が至福であり、生きがい。インスタ映えや星の数じゃなく、自分がいいと思えたものとの出会いを綴ってゆきたいです

福井県坂井市「谷口屋本店」~既知のものとは違う、未知の味~

 

初福井旅!新幹線開通前から金沢には頻繁に旅していたので小松空港には何度も降り立っているが、福井県方面の地を踏むのは初めてだ。数年前から何度か福井行きを検討していたが、正直県内の交通の便があまり良くないので、数日の滞在中に希望の目的地を効率よく回るには適しておらず、結果ペンディングとなってしまっていた。今回はいよいよ覚悟を決め(?)いざ出立。

旅の一番の目的はいつもながら食べ物だが、今回の目玉の一つが、「谷口屋」さんの油揚げ福井ご出身の方が福井県産のお米・いちほまれ始め、福井の郷土料理を提供されている西荻窪「ゆきとら」さんで出会ったのが、この「谷口屋」さんの油揚げだ。新潟の栃尾揚げ、「三鷹 みかづき酒房」さんでも供していた宮城の定義の三角油揚げなど、これまでも各地のいろんな名物油揚げを頂いてきたが、福井のこの油揚げといったら、その大きさに圧倒されるばかりだ。

福井県は豆腐や豆腐加工品の消費量が高く、わけてもあぶらあげ(厚揚げのことを、福井では『あぶらあげ』と呼ぶと聞いた。普通の油揚げは『うすあげ』というらしい)消費量全国No.1らしいし、作り立ての油揚げがその場で頂けるとあらば、これはもう行くしかないでしょう!

「谷口屋」さんの油揚げは、最近ではTVでも紹介されるほど大きな話題になって、本店レストランだけでなく、えちぜん鉄道永平寺口駅に近い2号店である「旬の心」でも頂けるようになったそうだ。アクセスの良い分店「旬の心」の方がお客さんが集中するのか予約の空きがなく、今回は予約が取れた本店レストランに伺うことに。はっきり言って、アクセスは良くない。車を運転しない私たちは、小松空港から空港バスで丸岡ICまで出て、そこからタクシーで向かった。マップ上では丸岡ICからの所要時間は1520分程と予想していたのだが、道中はくねくねの崖っぷちを通り、一山越えて辿り着く、といった感じ。30分近くはかかったのではないか。やっぱり遠いなぁ・・・。
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しかし、谷口屋さん自体はそのアクセスの悪さを全部帳消しにするほど良いお店だった。想像していたよりずっと大きく広い店内は、ウッディで温かみのある設えで、且つファミレスのような安心感あるゆとりを感じる。注文もタッチパネル(懇切丁寧なお店の方のサポートもあり)、トイレもウォシュレット&オート便蓋開閉と近代的。これは、観光バスで大勢やってくる団体客に対応しているものと思われる。接客も丁寧で気持ちがよく、マニュアルはもちろんあるのだろうが、棒読み接客ではなく、何を尋ねてもきちんと応えてくれる。

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テーブルには、同店の油揚げの大きさを示した実物大の写真と、ハーフサイズもある旨、そして食べ方指南を書いたメニューが置いてある。何も知らずに来店して、その大きさ故食べきれず持ち帰りを希望する人が多いようで、持ち帰りは衛生管理上NGなので、残してしまいそうだったらハーフにしてね、ということなのだろう。予備知識を持っている私でさえ、その写真(2D)に、こんなに大きいんだ・・・と思ったくらいだもの、いきなりだったらビックリするだろうなぁ。(こんなに遠いところまで、何も知らずに食べに来るのであれば、それもすごいが。)

◆十割おろしそば御膳
ところが!予備知識も心構えも万全な我々でさえ、実際に運ばれてきた油揚げの実物(3D)には度肝を抜かれた。大きいだけでなくて厚みもあるので、でーんと鎮座しているその存在感がすごい。そして、重い。だって、箸で持ち上げられないほど持ち重りするのだ。比較対象としてサングラスを置いたが、サングラス、ちっさ!
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それにつけてもこの油揚げ、まずは香りがご馳走だ。1時間近くもじっくりと時間をかけて油の中を揺蕩っていただけあって、胡麻油と菜種油の芳ばしい香りがに鼻をくすぐる。角から齧るのがおすすめとあったので、指南通りに一口。隅々までしっかりと揚げられているので、さっくりとした表面の十分な噛み応え、そして大豆と油の芳しい香りが鼻に抜け、肉汁ならぬ油揚げ汁が口の中にじゅわっと溢れる。

揚げの中の豆腐部分は、体積も旨味もギュギュっと凝縮されている。まんべんなく気泡が入った、
むっちりとした白い部分を齧ると、大豆の清々しい香りと、ほの甘く濃厚な味わいが広がって、なんだか多幸感に包まれる。

大豆由来の味わいの深さは言うまでもないが、とりわけ印象に残ったのが、油の美味しさ。”油のジュース”などと呼ぶと聞こえが悪いが、油って美味しいんだなと生まれて初めて感じた。全然油臭さがなく、むしろ一つの味わいとなっているような油の香ばしさと、大豆の甘みがあいまった油揚げ汁を味わっていると、油揚げという食べ物は大豆と油のベストマッチなんだなぁ、と実感する。

まずは塩で、その後おろしとタレで・・・と食べ方のガイダンスにはあるが、塩をつけると大豆の美味しさが引き立つとはいえ、それさえもったいないくらい。おろしとタレももちろん美味しく、これをご飯のおかずとするのもいいのだろうけど、何もつけないか、ちょっぴりの塩で頂く方が、油揚げ自体の旨さを堪能できると感じた。

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そういう意味でも、ごはんセットでなく、おろしそばとのセットをオーダーで正解だったと思う。

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セットとなっているそれぞれのお料理も、セットのための添え物感はなく、秀逸。大豆の風味が濃い豆腐、塩辛くも甘すぎもせず上品に煮含めた油揚げそばつゆも美味しいおろしそばも、とても美味しくいただいた。とかく"〇〇尽くし"は飽きてしまいがちだけど、こちらのセットは、豆腐油揚げの旨さを再認識できるコンビネーションだと思う。

■揚げ師の極味膳
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「谷口屋」さんには、「揚げ師」なる専任の油揚げ担当の方がいるという。
揚げ師の極味膳は、油揚げと、揚げ師のいるレストランのみで頂ける、半熟揚げとのハーフ&ハーフのセットだ。

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半熟揚げは、卵焼きや卵の天ぷらを連想させる、ふるふるとした食感で、豆腐でも油揚げでもない、正に”半熟状態”の揚げだ。
大豆の甘みもよりくっきりで、油揚げとはまた趣が異なり、美味しい。

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豆腐カツも意外なダークホースで、ギュギュっと水切りされた豆腐は、言われてみなければ鶏肉かと勘違いしそうだ。
 
大きな油揚げ売店で買って帰ることもできるけれど、やはり作り立ては格別で、ここでしか味わえない贅沢だ。知っている食材なのに初めての味覚体験、という奇妙さに興奮して無我夢中で頂きつつ、食べ終えてしまうのが惜しくて惜しくて、葛藤しきりだった。

この感動は、やっぱりここでしか味わえないものだろう。遠路はるばるやってきた甲斐があったというものだ。
あ~本当に美味しかった!ごちそうさまでした。



谷口屋豆腐料理・湯葉料理 / 坂井市その他)
昼総合点★★★★ 4.0